2007-11-02
§ *STS-120 P6-4B太陽電池パネル補修作業
(追記)船外活動は、日本時間11月3日(土)19時28分の開始予定ですが、準備が順調に進んでいるため、数十分早く開始される可能性があるとのこと。
土曜日(日本時間土曜夜)に行われる、太陽電池の補修ミッションの詳細が徐々に明らかになってきました。おそらくISSの建設が始まって以来、最も大掛かりな補修作業になりそうです。
少し詳しくまとめておきましょう。
§ **現状
問題となっているP6-4B太陽電池パネルは、ISSの左舷(現在シャトルがドッキングしている位置がISSの「前」)、一番外側の太陽電池パネルです。今回のSTS-120、飛行8日目に移設、展開作業が行われましたが、その際ガイドワイヤーが絡まりパネルの一部が破損しました。
太陽電池パネルの破損箇所を放置したまま太陽を追尾させると、負荷で破損箇所が広がってしまう可能性があり、現在は太陽の追尾は止められています。
また、右側の太陽電池パネルは、回転部から振動が発生しており、こちらも太陽の追尾ができない状態になっています。FD2の船外活動で調査が行われた結果、回転部の内部に大量の細かい金属片のようなものが付着しているのが発見されました(この部分の調査はシャトルがISSを離脱した後、ISSのクルーによって行われる予定です)。
現在ISSは左右両方の太陽電池に不具合を抱え、太陽の追尾ができない状態にあります。
現状維持ならば、発生される電力にはさほど問題はありませんが、年末から来年にかけてESAのコロンバスモジュール、JAXAのきぼうモジュールが接続されると電力が不足します。また、今後何らかの原因で電力供給量が下がった場合、現状維持も困難になる可能性があります。
ISSの機器類は使用する電力の大半を太陽電池からの供給に頼っていますから、太陽電池の発電能力が不足することは極めて深刻な事態を招くことになります。
§ **補修ミッション概要
シャトルの検査用延長ブーム(OBSS)をISSのロボットアーム(SSRMS/カナダアーム)で掴み、その先にParazynski宇宙飛行士が乗って、故障箇所へと接近、絡まっているガイドワイヤーを外し、破損箇所をクリップ状の治具で固定する作業が行われます。必要ならば、ガイドワイヤーを切断し、太陽電池を展開した際の破損箇所への負荷を下げるとのこと。
金曜日の段階で、ISSのロボットアームでシャトルのカーゴベイよりOBSSを取り出し、一旦シャトルのロボットアームに渡します(ドッキング中は位置的にシャトルのロボットアームが直接OBSSを掴めないため)。その状態で船外活動の開始までシャトルのロボットアームからOBSSへの電力を供給します(温度変化によるセンサーの故障を防ぐため※後述)。その間、ISSのロボットアームはISSの本体の故障箇所に最も近くなる箇所まで移動し、船外活動の開始に合わせてシャトルのロボットアームからOBSSを受け取ります。
船外活動を行うのは、Scott Parazynski、Doug Wheelockの両宇宙飛行士。船外活動が開始されると、両宇宙飛行士はOBSSに足場を接続、Parazynski宇宙飛行士がその足場に体を固定し、ISSのクルーの操作により破損箇所へ接近します。
§ **スケジュール(以下、日本時間11月3日土曜日)
(追記)準備が順調に進んでいるため、数十分早く開始される可能性があるとのこと。
19:28 船外活動開始~
19:58 OBSSセットアップ/Parazynski飛行士がOBSSの先端へ~
20:43 P6-4B太陽電池パネルへ移動開始~
21:50 補修作業開始~
00:28 作業終了、OBSSを元の位置へ~
01:08 Parazynski飛行士がOBSSから降りる/OBSSを収納~
01:58 船外活動終了/エアロックへ~
02:08 エアロック加圧開始
§ **作業のリスク
§ ***ロボットアームとOBSSは今回のような使い方を想定されていない
まず「ISSのロボットアームで、シャトルのOBSSを掴み、その先に宇宙飛行士を乗せる」という運用がこれまで一度も行われたことがない、ということ。
1.ISSのロボットアームはOBSSを掴むことができる~
2.シャトルのロボットアームの先につけたOBSSに人が乗って作業したことはある
この二つについては既に実証済みです。でも、この二つを組み合わせたシチュエーションはまったくの未経験。おそらく、トレーニングはおろか、これまで想定されたことすらありません。当然、シミュレーションでは問題ないという結果が出ていますが、「実際どのように振舞うかは、やってみないとわからない」という状態のようです。おそらく、各部への負荷を見ながら、かなり慎重に作業を進める必要が出てくるでしょう。
また、NASAの内部で最も懸念されているのは、OBSSが長時間電源が切られた状態に置かれるためにヒーターが使えず、温度変化でOBSSのセンサー類がだめになってしまうかもしれない、ということのようです。
本来、ISSのロボットアームとシャトルのロボットアームの間でOBSSの受け渡しを行うのはごく限られた時間だけです。OBSSはシャトルのカーゴベイに入っていますが、ドッキング中は位置的にシャトルのロボットアームがOBSSを掴むことができないため、ISSのロボットアームがカーゴベイからOBSSを取り出し、シャトルのロボットアームに渡すという作業が必要になります(先ほども書いたように今回もこの作業が行われます)。
シャトルのロボットアームはOBSSに電力を供給できますが、ISSのロボットアームにその機能はありません。今回のミッションでは、通常の単純な受け渡し作業とは比較にならないほど長時間OBSSが無電源状態に置かれることになり、温度変化に弱いセンサーが故障してしまう可能性があります。
もしOBSSのセンサーが壊れてしまうと、シャトルがISSから離脱した後の耐熱タイルの検査をOBSSなしで行うことになり、検査可能な範囲が著しく制限されてしまいます。
§ ***補修箇所がエアロックから遠い
さらに、ISSの中心部、エアロックがある場所から補修箇所が非常に遠いということ。
通常の船外活動は、その場所からエアロックまで戻るのにかかる時間が30分以内の場所に限定されています。これは何らかの原因でバックパックから宇宙飛行士への酸素の供給が絶たれた場合、宇宙服の中に残った酸素だけで活動できるのが30分だからです。今回のミッションでは、ロボットアームの先に乗るParazynski宇宙飛行士は、この30分という限界を超えたところで作業を行うことになります。
また、補修箇所に到達した時点で、ロボットアームはほぼ完全に伸び切った状態にあり、かなり動きが限定されます。シャトルやISSからの視界や、夜の側に入ったときの照明などもかなり限られてしまうようです。
§ ***太陽電池が通電している
破損しているものの、今も太陽電池は電力を生み出しています(ISSへの供給を切ることはできますが、個々の電池が生み出す電気は切ることができません)。Parazynski宇宙飛行士は、破損箇所に非常に接近し、工具を太陽電池に触れさせて作業をするため、感電の危険性があります。これを防ぐため、使用する工具に絶縁テープを巻くなどの対処が行われています。
§ **参考
ref. Risky spacewalk planned to save mangled solar array(Spaceflight Now)~
ref. NASA change EVA-4 for array repair, via ambitious plan(NASA SpaceFlight.com)~
ref. NASA hard at work on complex array repair planm(NASA SpaceFlight.com)
これがアニメかなんかなら、<br>シャトルが分離して近づけて相対位置を固定で…<br>となる所ですが、こう何とももどかしいですね。<br>現場には頑張って欲しいものです。<br>ところで宇宙服って感電するものなんですか?<br>少なくともグローブぐらいは絶縁素材だと思ってました。
>ところで宇宙服って感電するものなんですか? <br>そこはちょっと不思議なんですよね。主素材はファイバーグラスとか<br>ポリエステルとか、非伝導性だったと思うんですが...<br>まあ、おそらく万が一ということだとは思うんですが、<br>かなり気にしているようです。