2006-07-31
§ **[clip] イタコの「口寄せ」に癒やし効果…青森県立保健大調べ : 科学(YOMIURI ONLINE)
まあ、そりゃあるだろうなあ。「癒して欲しい」という人と「癒してあげる」という人が出会えば、何らかの効果があるのは当然だもの。でも、それを医療の現場でのメンタルケアと同列に論じるのは、かなり気をつけてやらないと危ないんじゃないかな。
藤井教授は、多くのイタコが死亡した親族や友人らの“言づて”として、悩みを抱えた患者らに、問題の解決時期を示し、「そこまで我慢すれば良くなる」などと述べる点に注目。「現代医療は患者にリスクを説明し、自己決定を促す傾向にあるが、患者は医師や看護師に『見通しをつけてほしい』と願っている。イタコの口寄せには安心感や前向きに生きる力を与える効果があり、学ぶべき点がある」と話している。
記事を読む限り、この研究は「医師や看護師が悩みを抱えた患者らに問題の解決時期を示す」ことを提案しているみたい*1。それってどうなんだろう?相談者がイタコに求めているものと、患者が医療に求めているものは全然違う。それを混同するのは、ちょっとまずいんじゃないかな。
イタコの言葉を信じるか信じないかは、相談した人の問題だし、その正否は多くの場合解釈の問題だ。だから僕たちは安心して“言づて”を聞ける。“言づて”が間違っていたからといって、イタコを訴える人はあまりいないんじゃないかな?それはどこかで、相談者が「間違えていても恨みっこなし」ということを納得しているからだ。でも、人々が医療に求めているのはそういうものじゃないよね。
確かに、自分が病気になった時に知りたいのは、確実に直るのか?いつまで続くのか?という予測であることは事実だ。でも、もし、それを言ったのが「イタコ」や「占い師」なら、間違えても「やっぱり口寄せは迷信なのか」で済む話かもしれない(あるいは「日ごろの行いが悪いからだ」かな)。でも、「3ヶ月我慢すれば、きっと良くなりますよ」というお医者さんの言葉が間違えていたら、「やっぱり医者って当てにならないよね」と諦められるかな?
この世の中には確実なことしか言わないからこそ安心できることもある(僕はこっちの方が多いと思う)。もしある日突然、お医者さんが「これからは、患者を安心させるために、あまり確実じゃないこともどんどん口にするようにします」と宣言したら、僕はものすごく不安になるだろう。もし黙ってそんなことをやられたとしたら、もっと困る。僕は誰の言葉を信じればいいんだ?イタコか?
これには異論があるかもしれないけれど、僕は、お医者さんに軽々しく予見を口に出して欲しくない。彼らには「確実に言えること」だけを口にして欲しい。僕がお医者さんに求めるのは「確かさ」であって、確かさを担保にして「癒し」を配ってもらうことじゃない。
*1 もちろん、これは研究の意図を誤解している可能性もある。残念ながらネット上には記事の元になった論文や研究報告を見つけることはできなかった。悪しからず。