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2013-07-02 Lizard's tail の季節

§ 半夏生

夏至から10日ほど過ぎた7月2日前後のこの時期は七十二候の1つで『半夏生』と呼ばれ、現在では「天球上の黄経100度の点を太陽が通過するとき」という区分になっています。

黄経(こうけい)というのは、天球上の位置を表す単位の一つで、地球の公転面を基準に、春分点の方向をゼロとして測った角度になります。春分が0度、夏至が黄経90度、秋分が黄経180度、冬至が黄経270度です。地球は太陽の周りを1年で一周するわけですから、黄緯100度は夏至から10度分、つまり約10日過ぎた当たり、ということなります。1年を72等分すると100度がだいたいこの辺りになるというだけで、特に見た目に分かるような現象が起きるわけじゃありません。

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天文学的には特に特別な日というわけではありませんが、日本では昔から多くの地方でこの時期を特別な季節としてきました。なにやら色々食べたり、禁忌があったりと、なかなか面白い季節なので少し紹介しましょう*1

地方によっては、この時期の天候によってその年の稲の収穫を占ったり、豆や雑穀の煎り物を禁じていたりします。関西ではタコを食べたり(ちなみに、タコは夏の季語です)、讃岐では饂飩を食べたり、京都や山口では「ハゲダンゴ」といって団子を食べたりするそうです。福井では焼き鯖(40cmぐらいの奴)を一人一匹丸焼きにして食べるとか。

また、この時期に降る雨は必ず大雨になるといわれ、この季節に降る豪雨のことを半夏雨(半夏水)といいます。また、「天から毒気が降る」という言い伝えもあり、井戸に蓋をしたり、この日に取った野菜を食べないとする風習もあります。逆に地中に陰毒が含まれるので「この時期は毒草が生える」という理由で種蒔きを禁じ、ワラビやタケノコなどの野草を食べないという地方もあるようです(ただし、どちらも旬を外れているので収穫は難しそうです)。

この季節に田畑などに生える烏柄杓は、乾燥させると『半夏』という生薬になり、半夏生の名前の由来の一つとも言われていますが、生ではシュウ酸カルシウムを含むために食べることができません。もしかしたら上の毒草は烏柄杓のことかもしれませんね。

もうひとつ、その名も『半夏生』というドクダミ科の植物はこの季節に葉が半分だけ白くなり、夏の盛り頃になるとが元の緑色に戻ります(そのため『半化粧』の別名があります)。7月の茶花で、昔は「葉の白くなり加減」でその年の豊作不作を占ったとのこと。

また、ハンゲという妖怪がこの時期(特に7/2)に田畑を徘徊するため、農作業を休む地方もあるそうな。奈良の十津川の方では「半夏生に竹薮に入るとゴウラ(河童)がいる」等といわれたり、また関東の多摩川上流の地方では、この日にとある働き者の爺さんが死んでしまったとされ「ハンゲジイサンの日」として、この日には畑や竹薮に入ってはいけないという事になっているそうです。

毒草だったり、妖怪だったり、なんだかちょっと暗い影のつきまとう季節ですね。なぜ、この季節が特別な時期とされるようになったのでしょうか?これは半ば私見ですが、もしかしたら、梅雨が終わり農作業が一段落する季節に重なっていることも大きいのかもしれません。

たとえば「半夏半作」という言葉があるように、この季節はこの時期を過ぎても田植えをしているようではたいした収穫にならないという区切りの時期とされています。田植えが終わった時期の祭りを「半夏まつり」と呼ぶ地方も多く、作物に虫がつくのを避ける「虫送り」や雨乞いなどを行うこともあります。夏の前の短い農閑期、田植えの終わりの安堵と収穫に向けての不安がこれらの微妙な伝承や風習を生んだのかもしれません。

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さて、なぜこんなにくどくどと半夏生のエピソードを集めているかというと... 実は上で触れた、葉が半分白くなる『ハンゲショウ』の英名(俗称)が"lizard's tail"だったりするんです(学名の Saururus chinensis の Saururus がトカゲの尻尾の意)。ただし、このサイトのドメイン名(lizard-tail.com)の由来はハンゲショウではありません。

本当の名前の由来は内緒です*2

*1 本稿は以前このサイトに掲載したものの改訂版です

*2 いや別に大した由来じゃないんですけどね

§ Referance

※本稿の内容は、複数の書籍やサイトから個人的に拾い集めたもので、特定の文献に基づくものではありません。その意味では学術資料的な価値はありませんので、くれぐれもご注意ください。

以下は代表的な百科事典サイトの半夏生の項目へのリンクです。