2007-11-21
§ *[clip] Shock as UK withdraws from Gemini Observatory(Astronomy Now)
ジェミニ望遠鏡からイギリスが撤退、というお話。えー!まじですか!15日、英国の科学技術施設会議は、ジェミニ望遠鏡の運用から撤退することを表明した、とのこと。直接の原因は、政府の科学技術施設の運用予算が大幅にカットされたためとか。~
ref. Gemini Observatory(Science and Technology Facilities Council)
ジェミニ望遠鏡はアメリカ、イギリス、カナダ、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、チリの7ヵ国が共同で運用している8m級の大型望遠鏡で、ハワイのマウナケア山頂とチリ、セロパラナルに建てられたほぼ同型の2台の望遠鏡からなり、北天と南天の両方をカバーしています。
当然、イギリスの天文学界からは批判の声が上がっています。~
ref. Royal Astronomical Society
イギリスは他にもヨーロッパ南天文台のVLT(Very Large Telescope)に参加しているので、ジェミニ望遠鏡が使えなくなっても、8m級の大型望遠鏡が使えなくなるわけではありません。彼らにとってこれが痛手なのは、ハワイのジェミニ北望遠鏡を使えなくなると、北半球で使える8m級の望遠鏡がなくなってしまうからです。なにしろ、観測できる範囲がいきなり半分になってしまうということですからね。また、ChandraやXMM-Newtonなどの宇宙望遠鏡との共同プロジェクト、HerschelやPlanckなどのサブミリ波電波望遠鏡との共同プロジェクトなどに大きな影響が出ることは必須、とのこと。
また、これはジェミニ望遠鏡を共同管理していたパートナー各国にも耳の痛い話。イギリスは運用費の23%を担っていましたから、その穴は他のパートナー間で埋めることになります。いちおう「運用上は問題ない」というリリースが出ていますが、今後全く影響がないとはちょっと思えませんね。~
ref. Important Announcement from the Gemini Board November 16, 2007(Gemini Observatory)
国際協力というと言葉はとても美しいですが、サイエンスが徐々に巨大プロジェクトへと移行し始めると、こうしたパートナーの動向によってプロジェクト全体、ひいてはその分野のサイエンス全体が揺らいでしまう可能性が増すことにもなります*1。とはいえ、お金がないから共同で運用しなくちゃいけない、というのも事実。手段の冗長性を確保する余裕があったら、そもそも国際協力なんて必要ありませんからね。結局「君のところは大丈夫だよねぇ...」と恐る恐るお互いの顔を見ながら前に進むしかありません。
国際協力によるビッグサイエンスはこのリスクから逃れられません。あまり指摘する声はありませんが、けっこう由々しき事態だと思います。ある意味でサイエンスが大きくなりすぎたともいえるかも知れませんが、もうそろそろ、国家という枠組みを超えたところでサイエンス全体の持続性を確保する努力というのが必要なんじゃないか、という気もしますね ... United Nations for Scienceとか、International Science Fundとか、ね。
*1 たとえば、ISSとか、ISSとか、ISSとか...