2007-07-25
§ **[clip] House ISS Hearing | NASA Watch (NASA Watch)
NASA Watchに今月の24日にアメリカ議会で行われた、スペースシャトルと国際宇宙ステーションに関する公聴会の各関係者のオープニングステートメントがまとめられています。これを見ていると、いまNASAを含むアメリカ政府が何を気にしているかが少し見えてきますね。
ISSの完成は2010年、完成と同時にシャトル退役というスケジュール。で、次世代機の初飛行が2015年、ISSの廃棄が2016年。議論の焦点は、このISS完成-シャトル退役から次世代機完成-ISS廃棄までの5年間はどうするの?という話です。
一つは、今のところ、人員や物資の輸送は基本的に協力機関(ロシア、ESA、JAXA)と民間企業に頼るということになっているけど、それでいいの?という話。もう一つはシャトルを運用している1万7000人の労働力をどうするか、という話。それから、ばかすか予算が削られたせいで完成したISSでの科学実験の予定がまともに立てられていないよ、というお話。どれもなかなか頭の痛い問題です。
さて、「労働力」の話はちょっと説明が必要かもしれませんね。
こういう話を聞くと、やれ「民間企業を食わせるための公共事業だ」とか「票集めのための労働市場へのアピールだ」という批判の声が上がりますが、それはちょっと物事を一面的に捉えすぎているような気がします(まあ、そういう側面がないとはいえませんが...)。
宇宙開発分野の労働力というのは、いわゆる普通の労働力とは違い、高度な知識とノウハウを伴います。まして、20年以上続いたプロジェクトならば、人材の育成や知識の引継ぎという見えないシステムも動いているでしょう。こうした目に見えない知識やノウハウは、マニュアル化すればいいというものではなく、常に何らかのタスクを与えて維持する必要があります。チームワークやリーダーシップ、トラブルへの対応、危機管理能力といったものは一朝一夕に育つものじゃありません。
実は、NASAはスペースシャトルの完成後、一度通常のロケットの製造ラインを閉じてしまったことがあります(打ち上げは全てシャトルで代替するつもりだったんです)。しかし、彼らは、チャレンジャー事故の後、再びこのラインを復活させなければならなくなった時にとてもに苦労しました。考えてみれば当然の話です。どんな優れたエンジニアでも、手順書と図面を渡されたからといって、いきなりロケットをほいほい作れたりはしません。
知識やノウハウは一度失われてしまうと、取り戻すのに莫大なコストと時間がかかります。もし将来的に再びそのリソースが必要になるとしたら、多少の無駄には目をつぶってもプロジェクトを維持する方がトータルでのリスクやコストが少なくて済む、というのは充分ありうることです。NASAはそのことをチャレンジャー事故のときに学んだんです。
以来、アメリカの宇宙開発は「労働力の維持」という言葉に大変敏感になりました。プロジェクトの縮小が議論される時、かならず「この労働力はどうするんだ?」という話が出るのはそういう理由です。
システムとしての力の維持となると大変そうですね。<br>また、このタイミングを狙って、特定のスキルに優れた個人や小チームを、<br>他の国(中国とか)が引き抜きを仕掛ける心配はないのでしょうか?
確かに、引き抜きはあるかも。インドとか。<br>この「ノウハウを維持するために仕事を作る」というのは<br>「知識の流出を防ぐ」という意味合いもあると思います。<br>軍事分野なんかでは結構大きいんじゃないかな?