2007-03-27
§ *日本天文学会で赤外線天文衛星「あかり」の成果を始めて発表
zundaさんが嘆いていたので、力いっぱい反応してみる。
2006年2月に打ち上げられた赤外線天文衛星「あかり」が順調に成果を出している模様。2007年3月28日〜30日に開かれる日本天文学会で、初めてその成果が発表されるとのこと。わーい。~
ref.赤外線天文衛星「あかり」による観測結果、日本天文学会で発表(ISAS)~
ref.あかり (ASTRO-F) 観測成果(ISAS/ASTRO-F)
発表される内容は以下の5つ。~
・「あかり」の広域観測が明らかにした星形成の系譜~
・初めて赤外線でとらえた小マゼラン雲の超新星残骸~
・「あかり」がとらえた円熟期の星の姿~
・赤外線でせまる巨大ブラックホールを持つ活動銀河核のまわりの分子ガス~
・「あかり」宇宙で活発に星が作られた時代を確認
よし、「力いっぱい」と書いたからには全部レビューしてみよう。詳しい内容は、リンク先を参照のこと。
§ ***「あかり」の広域観測が明らかにした星形成の系譜
こぎつね座IC4954/4955星雲の周辺で、3世代に渡って星が形成されている様子が捉えられたよ、というお話。どうやら、第一世代の星が歳を取って超新星爆発や質量放出を起こして星間物質をあたりにぶちまけ、さらに、その物質から出来た子供の星が歳を取ってまた星間物質をあたりにぶちまけ、さらに、その星間物質から孫の世代の星が生まれ始めている様子を捉えた、ということみたい。サイズにして100光年、時間にして数百万年から1千万年ぐらいのスケールのお話。わぉ!これは、厚い星間物質を透過できる赤外線望遠鏡だから可能になった観測。ちなみに、こぎつね座は夏の大三角形の真ん中にあります。
§ ***初めて赤外線でとらえた小マゼラン雲の超新星残骸
小マゼラン雲は我々の銀河系から20万光年ぐらいのところにある小さな銀河。この銀河の中で超新星が爆発した残骸を観測したよ、というお話。赤外線領域でこの残骸を観測したのは初めてとのこと。「あかり」が守備範囲にしている赤外線は、大気に吸収されてしまうので地上からはほとんど観測することが出来ない。これは宇宙望遠鏡である「あかり」だからこそ捕らえられた映像。ちなみに、小マゼラン雲(小マゼラン銀河)は「きょしちょう座」に...きょしちょう座?はい、南半球の星座なので日本からは見えません。
§ ***「あかり」がとらえた円熟期の星の姿
あるサイズの恒星は年を取ってくると、大きく膨らみ温度が下がって赤くなり赤色巨星になる。この赤色巨星は重力の束縛が弱くなって(重量そのままでサイズが大きくなるからね)、あたりに物質を放出し始める(質量放出)。で、これまでこの物質の放出現象は、始まってからずいぶんたった後のものしか観測されていなかったけれど、今回「あかり」は放出が始まったばかりの比較的若い赤色巨星を観測することに成功した、とのこと。例えていえば、これまで100歳超えた「老人」しか見られなかった所を、「ついこの間年金もらい始めました」みたいな人たちが見えた、という感じかな?これも、星間物質の中を覗き見ることが出来る「あかり」ならではの成果。今回観測されたNGC104はきょしちょう座に...また、きょしちょう座かよ!ちなみに、きょしちょうは「巨嘴鳥」とかいてオオハシのこと。
§ ***赤外線でせまる巨大ブラックホールを持つ活動銀河核のまわりの分子ガス
活動銀河というのは、ものすごく明るく輝いている銀河のこと。最近の研究で中心にあるブラックホールによって輝いているらしい、ということがわかってきている。ただ、この活動銀河の中心はたいてい厚い星間物質に覆われていて中がよくわからない。今回観測された、UGC05101もそんな銀河の一つ。でも、赤外線は星間物質を透過しやすいから「あかり」なら中が見える!というわけで、調べてみたら比較的冷たい星間物質の向こうで超高温の星間物質が中心核を取り巻いていることが分かったとのこと。ちなみに、UGC05101は大熊座に...言わずもがなですね、北斗七星のことです。
§ ***「あかり」宇宙で活発に星が作られた時代を確認
こちらは、「あかり」でものすごく遠いところを見てみたよ、というお話。宇宙は膨張しているので、遠いところの光は引き伸ばされて波長が長くなる。つまり、赤外線で見れば、すごく昔に(ということはすごく遠い)星が出した光を捉えることができるというわけ。これまでの観測で、60億年以上昔にも既に活発な活動をしている銀河が沢山「ありそうだ」ということは分かっていたけれど、今回の「あかり」の観測で、より短い観測時間でより広い領域を観測することが出来るようになった。より広い範囲の観測が出来た、ということは宇宙のどこを見てもこうなっている可能性が高い、ということ。「あかり」は掃天観測、つまり一点を見つめるんじゃなくて、空を掃くように広い領域を観測することを主目的としている。こういう、広い範囲を観測するのは「あかり」の面目躍如。
§ こうやって見ると、「宇宙」で「赤外線領域」の観測を行うことのメリットがとってもよく分かる研究が並んでますね。まあ、あたりまえといえばあたりまえか。というわけで、今後の研究にも大期待!がんばれ「あかり」!