Garbage Collection


2006-05-22

§ *[sts121] STS-121、ロールアウト

Discovery hauled to pad(SpaceFlightNow)~

7月1日の打上げに向けて、スペースシャトルが組立棟(VAB:Vehicle Assembly Building)から発射台へと移動しました。これに際して、プロジェクトマネージャーのWayne Haleさんの談話が出ています。この間、打上げ前の組立/テストの段階で外部燃料タンクにいくつか問題点が出ていましたが、主にこの件についてのコメントですね。要点は以下の2点です。

「断熱材の落下については、現段階で風洞テストは充分に行った。このデータを元にこの3週間以内に打ち上げの可否を判断する」~

「燃料枯渇センサーについては、新しいものへの交換がうまくいった。6月初旬に発射台上での燃料充填テストを行う予定」

ちょっと長くなりますが、いい機会なのでこれまでの経緯をまとめておきましょう。

§ **外部燃料タンクの断熱材の落下について

コロンビア号の事故原因は外部燃料タンクから落下した断熱材の破片がシャトルの翼に損傷を与えたことでした。これを受けて外部燃料タンクの改修が行われましたが、事故後のSTS-114の打上げ時の映像から再び大きな断熱材の破片が剥離していたことが分かりました。

断熱材の落下は起きないと断言していただけに、NASAにとっては外部燃料タンクの安全性の確保は、シャトルの安全な運行にかなり大きな課題となりました。今回のSTS-121に際しては、再び外部燃料タンクに改修が加えられています。

前回と今回のタンクの外見上の一番大きな変化は、前回断熱材が脱落した部分の断熱材の整形方法です(おそらく、これ以外にもマイナーチェンジがいくつもあるはずです)。

左が前回のもの、右が今回のもの。一目瞭然ですね。パイプの脇の前回剥離した部分が除去されています。プロジェクトマネージャーが言及している最終的な風洞テストというのは、この部分の改修が他の場所に悪影響を及ぼさないか?断熱材の剥離がこれ以上起きないか?ということに関するものですね。

燃料タンクの改修については、STS-121以降の打上げに合わせて更なる改良が続けられているとのこと。今回のフライトで実際に飛行中のデータを取ってより安全な設計を試みるという感じでしょうか(ちなみに、今回のフライトも前回に引き続きコロンビア事故後のテスト飛行という位置づけです)。

§ **燃料枯渇センサーの不具合について

前回の打上げ時に、外部燃料タンクの底の部分に設置された燃料枯渇センサー(ECO Sensors)の動作不良が見つかり、打上げが延期されるというトラブルがありました。このセンサーは燃料タンクが空になるまえにエンジンを止めるためのもので、誤動作すると致命的な結果を招く可能性があります(空になったと勘違いすればエンジンが止まってしまいますし、まだ燃料があると勘違いすればエンジンに燃料を供給する超高圧のポンプが空回りし、最悪の場合、爆発の危険があります)。cf)燃料枯渇センサー(NASA)

本来、このセンサーは工場での組立時に設置され、その後タンクの表面に断熱材が塗布されるために、「完成したら誰も触れない」というものでしたが、今回工場から最終組立棟に運び込まれた後のテストで不具合が出たため、タンクの底の断熱材を一部剥ぎ取ってセンサーの交換を行うという荒療治が行われています。この交換作業のために当初5月の予定だった打ち上げが、7月1日に延期されています。

前回の打上時、最終組立作業中に不具合が発生しタンクを丸ごと交換、打上寸前に再び不具合発生、今回、三度最終組立作業中に不具合発生、センサー交換、とそれぞれ別々のタンクのセンサーが3回連続で不具合を出していることになります。こうなると、素人でも何か構造上の欠陥があるんじゃないかと勘ぐりたくなる所ですが、今回の不具合は「配線ミス」とのこと。

プロジェクトマネージャーの話ではセンサーの交換はうまくいっていて、発射台上で実際に燃料を充填してみてテストを行うとのこと。

§ **打上げスケジュールについて

NASAは2010年にはシャトルを退役させ、現在開発を行っている次世代機に切り替えることを表明しています。また、現在軌道上で建設が行われている国際宇宙ステーションをシャトル退役までに完成させると宣言しました。しかしタイムリミットまでにISSを完成させるためのスケジュールはかなりタイトなものです。何らかの理由で打上げに遅れが出ると、それだけフライト数が少なくなっていくことになります。NASAは次世代機を使っての完成もほのめかしてはいますが、確約はしていません。今のところISSの完成はシャトルの打上げスケジュールが予定どうりに進むかどうかにかかっています。

これは、言ってみれば「約束どおりISSを完成させるためには、これ以上シャトルの打ち上げを延期できない」という状態がずーっと続くということを意味しています。コロンビア事故の調査では、タイトな打上スケジュールに対応するために各部署にかなり負荷がかかっていたことが事故の遠因として上げられていました。今回も当時と同じような状況になっていないかという懸念がもたれています。

実際、ランプが割れてシャトルの機体の中にガラス片が飛び散ったり、作業用のゴンドラを貨物室内のロボットアームをぶつけたりと、ちょっとこの懸念が顕在化しているかのようなニュースも報じられています。

§ **まとめ

さて、今回の打上の大きな懸念事項はこんな感じでしょうか。これに対するNASAの発表は「外部燃料タンクの不具合は現時点でできる限りのことはやった、打上は予定通り決行する」という感じ。それを見守るマスコミの雰囲気は「ほんとに直ってるの?また不具合が起きるんじゃない?なんかミスも多いしスケジュールであちこち無理がきてるんじゃないの?でも、これ以上延期したらISSが完成しないよね」という感じですね。

NASAは当然「安全性には問題がない」と言い続けるでしょうし、マスコミはニュース性という観点から「安全性に問題があるかもしれない」とあおり続けるでしょう。これは、どちらに組するかという話じゃなくて、どちらの話にも「?」をつけつつ成り行きを見守るというのが、一番正しい態度かもしれませんね。