2006-01-17
§ 打ち上げ中止!
New Horizonsの打ち上げは、2分30秒前に中止されたようです。
どうやら風が強くて、少しづつ打ち上げをのばしながら様子を見ていたけれど、結局打ち上げウィンドウを使い果たしてしまった、という感じみたい。次にウィンドウが開くのは本日深夜、日本時間19日3時16分です。
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「打上げウィンドウ(Launch Window)」というのは、ひとことで言えば「打上げが可能な期間/時間」のこと。実は、ロケットはいつでも打ち上げられるというわけではなくて、様々な制限から、打ち上げられる期間とその時間がかなり限られているんです。
まず問題になるのは、打上げ地と目標となる軌道の位置関係です。また、今回のように他の惑星へのミッションだと、地球と目標の天体との位置関係も重要です。電源に太陽電池を使っていると、太陽と軌道との位置関係が問題になることもあります。
これは、地球が自転や公転をしているために、狙った軌道の狙った場所に衛星を乗せるのに一番いいタイミングというのが出てくるからです。ただ、軌道の取り方で多少修正ができるため、このタイミングには数分から数時間の幅があり、これが「ウィンドウ」と呼ばれる所以です。もちろん打ち上げてから大きく修正することもできなくはありませんが、1gでも軽くしたいところに余計な燃料を積んでいくのはあまり現実的じゃありませんよね。
他にも、制限はいろいろあって、たとえば、打上げ地周辺や燃料タンクなどの落下地点を立ち入り禁止にするための契約があったりしますから、それでも制限がかかります。実際に日本では漁業協定があってロケットを打ち上げられるのは1月から2月の間と7月中旬から10月末までに限られています。あるいは、有人飛行の場合は緊急時の乗組員の緊急着陸地を確保するために時間が制限されることもあります。そうそう、この間のスペースシャトルの打上げでは、飛行中の安全確認のために「打上げは日中に限る」という制限がありましたね。
ある打上げウィンドウを外してしまったら、次まで待たなくちゃいけません。翌日ということもあれば、数日後ということもあります。あるいは、数年ということもあるでしょう(現実的には、たぶんそうなったらミッションは継続できませんね)。ロケットの打上げはタイミングが全てなんです。
ちなみに、New Horizonsの打上げウィンドウは以下の通り。
Jan. 17-27 (July 14, 2015)
Jan. 28 (August 15, 2015)
Jan. 29-31 (July 12, 2016)
Feb. 1-2 (July 11, 2017)
Feb. 3-8 (July 10, 2018)
Feb. 9-12 (June 7, 2019)
Feb. 13-14 (July 20, 2020)
カッコ内は各打上げウィンドウに対応した到着予定日です。それぞれの打上げウィンドウによって軌道が異なるために、到着時間が変わってきます。2/2以降のウィンドウでは木星には立ち寄らず、直接冥王星に向かうことになります。
§ New Horizons打ち上げ!
New Horizons Web Site(NASA)
日本時間18日午前3時24分(東部標準時17日13時24分)、初の冥王星探査機『New Horizons』が、ケネディ宇宙センター第41番発射台(GoogleMap)から打ち上げられます。
もちろん今回もNASA-TVでストリーミング中継、SpaceFlightNowでライブアップデートが行われます。夜中の3時ですが...
『New Horizons』は、史上初の冥王星探査機であり、太陽系の外縁部に広がるカイパーベルトと呼ばれる小天体群を観測する始めての探査機となります。
ミッションの大まかな流れはこんな感じ。
約465kgという軽い探査機を、アトラスシリーズという強力なロケットで加速することで、探査機はとんでもない速度で地球軌道を離脱していきます。そのスピードは発射の9時間後には月軌道の外へ到達するほど。は、速っ!そのまま、史上最短となる13ヶ月で木星へと到達(2007年2月25-3月2日)、重力アシストでさらに加速して冥王星へ向かいます。この機会に打ち上げることができれば、冥王星に最接近するのは2015年7月14日12時20分。でも、そんなスピードだから止まることはできず、あっという間に通り過ぎて太陽系外へ。カイパーベルトの観測を続けながらそのまま史上5番目の恒星船になります。
冥王星というと、最近は大きなカイパーベルト天体が見つかるたびに惑星の地位が危うくなるので有名ですが*1、なにしろまだ探査機の飛んだことのない唯一の惑星です。母惑星の半分もある太陽系で一番大きな衛星カロンを持っていたり、逆温暖化現象が起きていて大気のないカロンより冥王星の方が寒い(NewScientist)なんて話もあって、なかなか見所もいろいろありそうです。なによりカイパーベルト天体が間近で見られるというのはなかなかない機会です。成功するといいなあ。
*1 惑星の地位を保っているのは、唯一アメリカ人が発見した惑星だからだというまことしやかな噂が...まあ、今更格下げされても困りますけどね。