2004-03-01
§ [book] 松浦 晋也 『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』日経BP社 (amazon)
ずっと、日本の宇宙開発を追い続けてきた、日本随一の宇宙開発ジャーナリスト松浦晋也氏渾身のルポ。前作では、日本独自の有人宇宙飛行計画を巡って「日本の宇宙開発の夢と現実」が語られていましたが、今作では、日本の宇宙開発を巡る政治と組織の問題に迫っています。
日本の宇宙開発の現状が知りたいのなら、今のところこれ以上の本はないと思います。ただ、作者自身が「日本独自の有人宇宙計画」に思い入れが深いので、どうしても議論がそっちに傾いてしまうきらいはありますけどね。
§ [book] 中冨 信夫『日本の衛星はなぜ落ちるのか』光文社(amazon)
と、上の本にそっくりのタイトルの本が、店頭に並んでいました。作者は中冨信夫氏。普段ならこの人の本は買わないんですが、いつもの似非NASA紹介本じゃなかったので、出来心で読んでみました。これは、ちょっと、ひどいです。一言で言えば、「日本の宇宙開発の設計思想 Design Ideas の無さを糾弾する」という主旨の本。同じ内容を書いているのにこうも読後感が違うのは、中富氏には日本の宇宙開発に対してこれっぽっちも愛がないからなんでしょう。
日本の話だと「設計思想が悪い」になり、アメリカの話だと「設計思想は素晴らしいが、組織と予算の少なさが原因」になるのはなぜでしょうか?本当に事故調査報告書を読みましたか?イントロダクションにすら、まずい設計を騙し騙し運用してきたことに根本的な原因がある、って書いてあるんですが...。アメリカの宇宙開発の記述には、予算の切り詰めが技術を圧迫なんて書いてあるのに、日本の場合は税金の無駄遣いだ!という記述ばかりで、日本の宇宙開発予算の少なさに対する言及はほとんどありません。ESAやNASAの開発初期段階の失敗には「失敗から学び」となるのに、日本の開発初期段階のH-II、H-IIAだと「愚かにも」とか「ぶざまにも」っていう単語が踊ります。どうしても、必要以上にNASAやESAの技術を称揚し、日本の宇宙開発をおとしめているようにしか読めません。
政治的な思惑の中で予算や組織が技術開発を圧迫していく。ルーティン化してしまったプロセスや責任の不在が安全性や信頼性を脅かしていく。一歩引いてみれば、NASAもJAXAも抱えている病は同じに見えます。この両者を丁寧に分析するだけで、第一級の技術-組織論が書けると思うんですけどねえ。これだけ豊富な材料を用意しておきながら、冷静にその両者を比べることをせずに、「アメリカは素晴らしく、日本はダメだ」という結論だけを声高に叫ぶだけになってしまっているのが、作者の視野の狭さを表しているような気がします。
両方読むとなかなか趣が深いんですが、どちらか一冊をということならば、迷わず松浦氏の本をお進めします。
§ 光文社ペーバーバックス
それにしても、この光文社ペーバーバックスシリーズの「英語まじり4重表記」はただひたすら読みにくいだけだねえ。日本語だと意味がぶれる単語に英語表記が付加されているわけでもなく、時事英語というわけでもなく、なんだか思いついたように単語に英文表記が付加 add されているのでイライラさせられる irritated こと甚だしい very much。
これを評して「日本語表記の未来形」とはちゃんちゃらおかしい。同じ意味を二度繰り返してどうするよ。やるんならもっと、boldly に cutting off the words すべきだyo ! yo ! はあ、たった1文なのに、この文体はものすごく疲れる ne !