Garbage Collection


2009-09-07

§ 『Thirty Meter Telescope』の建設地が、ハワイマウナケア山頂に内定

アメリカとカナダの大学連合が中心となって進めている口径30mの超巨大可視光・赤外望遠鏡『Thirty Meter Telescope(TMT)』の建設地が、ハワイマウナケア山頂に内定した、とのこと。おぉ!マウナケアといえば、日本の口径8mの望遠鏡『すばる』を始めとして各国の巨大望遠鏡群が多数設置されている場所。この間チリのセロ・アルマソネスとどちらにするかで協議が続けられてきましたが。結局マウナケアに決まったようです。今のところ、2010年に着工、2017年にファーストライト*1、2018年に本稼動を予定しているとのこと。~

ref. Thirty Meter Telescope Selects Mauna Kea~

ref. NAOJ ELT projelct : TMT建設地はマウナケアに (TMT web news 和訳版)※上記記事の和訳~

ref. ハワイの超巨大望遠鏡、すばるとタッグ 日本も建設参加(asahi.com) ※おそらく1週間程度で消えます

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これでTMT計画も大きく前進、といいいたいところですが、まだまだやることは山済みです。予算や技術的な課題はもちろんですが、一番大きいのは地元との協力関係を築くことでしょうか。このニュースリリースを読むと、まだ建設予定地が決まっただけで、地元の建設許可が下りたわけではなさそうです。

マウナケアは地元の人々にとっては、神々のつかさどる神域。現在の大型望遠鏡群を建設することについても大きな反対がありましたし、利用の仕方についても地元の自治体との取り決めがあります(たとえば、建てられる建物の数が決まっていたりします)。また、周辺の生態系への影響や環境汚染を指摘する声もあります。

現状ですら反対意見があるところに、さらに巨大な望遠鏡を作るということになれば、大きな反発が起きることは必須です。新しく建てるTMTがこうした状況に配慮するのはもちろん、既存の望遠鏡の運用体制も見直した上で、地元の人々の理解を得る、というのが順当なところでしょうが... これはなかなか難しそう。

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実は日本も前々からこの計画への参加表明をしていましたが、『すばる』が設置されているマウナケアに内定したことで、日本のプロジェクト参加もさらに具体化しそうです。

口径が30mもあればこれまで見えなかったものが見えてくるはず。とはいえ、闇雲に空に望遠鏡を向けても面白いものが見られるとは限りません。限られた観測時間の中で効率よく観測を行うためには予備調査が必要になります。もしTMTがマウナケアに作られれば、視野の広いすばる望遠鏡はこの予備観測での活躍が期待できます。もし逆に、TMTの建設が南米に決まっていたら、日本は南半球に大型の可視光望遠鏡を持っていませんから、こういう協力の仕方はできなかったかもしれません。というわけで、これは日本にとってもグッドニュース。

TMT本体の建設計画への参加も、先方との協議も含め着々と進められているようですが、確かまだ具体的な予算がついていないはず。日本の参加についてもこれから一山二山ありそうです。

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さて、個人的には、日本のTMTプロジェクトへの参加を応援したい反面、大きくコミットすることについてはちょっと不安もあります。それは、ただでさえ少ない日本の天文学関連予算がこのプロジェクトに食われてしまわないか、ということ。

口径が大きくなれば望遠鏡だけでなく、接続する観測機器も巨大なものになります。開発費やメンテナンスにかなりの予算と時間を必要とするでしょう。とはいえ国際共同プロジェクトですから、見返りに得られる観測時間は限られています。それが何にも代えがたい観測時間であるのは重々承知していますが、それを享受できるのはごく一部の研究者だけです。

また、上にも書いたように、30mができたら8mのすばるが要らなくなるわけではなく、これまで以上に活躍の場が広がるはずです。本来ならば、来るべき30m級の時代に備えて、人員や機材が強化されるのが理想でしょう。逆に、一番怖いのはTMTに予算が食われて既存施設の増強や、メンテナンスなどに予算が回らなくなることです。

要するに、ピークだけやたら高くなって裾野がやせ細る、といういびつな山ができやしないか、という懸念です(まあどんな巨大プロジェクトにもついて回る懸念ですが)。TMTへのアクセスは得られたけれど、あとにはぺんぺん草も生えない、というのでは本末転倒でしょう。だからといって、指をくわえてみているわけにいかないのも事実。なかなか悩ましいところです。

一天文ファンとしてはTMT計画に参加することで、日本の天文学がさらに豊かになってほしいのですが... 。

(追記)~

これまでの経緯は、以前まとめた以下の文書をどうぞ(相変わらず同じことを書いてますねえ)。~

ref.Garbage Collection(2007-03-14)

*1 初めて望遠鏡に天体の光を入れて画像を出力すること

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> ブロガー(志望) (2009-10-11 08:15)

お邪魔します。<br> 自分としては岡山県浅口市に建設予定の3.5m分割鏡の進み<br>具合に興味があります(TMTはあくまで"アメリカの"望遠<br>鏡)。どこかにコミットするにしても「技術」とかを持って<br>いないと立場は弱いのではないでしょうか(ミリオタでもあ<br>る自分としては時期主力戦闘機でアメリカに(まだ完成して<br>いない機体の)「資料請求"だけ"で10億円、最も肝心な箇所<br>は購入決定後」とか言われているのが悔しいです)。あれば<br>日本主導で巨大望遠鏡を建設できる可能性もありますし。<br>どっちみち30m超級の望遠鏡の建設には「鏡の効率的な製<br>造」が不可欠ですから、「削り出し製造技術」には期待がか<br>かります(難しそうだけど)。