Garbage Collection


2007-02-26

§ *情報収集衛星は役立たず?

「情報収集衛星」が解像度が低くて役に立たないという意見をたまに聞くけれど、本当にそうなのかな?~

ref.情報収集衛星:打ち上げ成功…4基態勢に(Mainichi-MSN)

§ **衛星の性能だけ上げても意味がない

インテリジェンス(諜報・防諜)の常識からいえば、衛星写真はそれ以外の様々な情報と組み合わせて初めてその真価を発揮する。そもそも「カメラをどこに向ければいいか」が分からなければ使いようがないし、どんなに高解像度の衛星写真があっても「そこに何が写っているのか」が分からなければ何の意味もない。それを明らかにするのは「より細かいところまで写された衛星写真」じゃなくて、むしろ、衛星写真以外の手段で得られた情報のほうだ。

GoogleMapsを見てみよう。解像度1mというのはこれぐらい。~

ref.Google Map:35.675749,139.744259

これは、某国の政府主要施設。駐車場に車が止まっているのがわかるだろうか。たとえば、この画を毎日一ヶ月間撮りつづけたらどうだろう。車の出入りにパターンが見つからないだろうか?ある特定の車が、ある特定の曜日に駐車場にとまっていたりしないだろうか?スカスカだった駐車場がある日突然車でいっぱいになったりしたら、何か特別なことが中で行われているという証拠じゃないだろうか?あるいは、物資の搬入頻度やゴミの回収頻度を見ていれば、施設の規模と可動状況が分かるかもしれない。

もちろん、ここで解像度を数十センチまで上げられれば、止まっている車の車種を判断できる。でも、それにどれほどの意味があるだろうか?そんなことよりも、その前後数日間の政府からのアナウンスやニュースなんかを横目で見ながら、衛星写真の変化を比べているほうが、よほど沢山のことがわかるはず。その駐車場が何のためのもので、誰が使っているのかは、どんなに解像度を上げてもわからないけれど、たとえば「内閣総辞職」というニュースと一緒に前後数日間の写真を見比べれば、色々わかることもありそうだよね。

衛星写真の分析というのは、写真を眺めていればいいというものじゃない。その国の政治の状況、物資の流れ、産業の状況、対外的な政策、そういうものを総合した上で、その写真に写っているものが何で、これからそこで何が行われようとしているのかを判断しなくちゃいけない。問題は、機材の性能じゃなくて使い方だ。衛星写真は相手の国の状況を把握するための手段の一つでしかない。どんなに写真の解像度を上げても、写真一枚から分かることはたかが知れている。それを他の情報と組み合わせて始めて、本当の意味でそこに何が写っているのかが分かる。

重要なのは、ある特定の対象の細部を観察することじゃなくて、その変化を見抜くことだ。だとすれば、「1mの解像度で地球上のあらゆる場所を24時間に1回撮影することができる」という能力は、決して悪い能力とはいえないんじゃないだろうか。解像度で民間衛星に及ばないから役に立たない、というのはちょっと視野が狭すぎる。

§ **性能が上がることの意味

個人的には、情報収集衛星に対する議論が、ついこの間まで「要不要論」だったのに、いつの間にか「性能」の問題になっていることのほうがずっと気になる。まあ、国家安全保障上は持っていたほうが何かと便利なのは分かるんだけどね。

「情報収集衛星を持っている」ということそのものが、日本の国際社会に対するあるスタンスを示しているし、それにはプラスとマイナスの両面がある。国際社会であるプレゼンスを発揮するには持っていて悪くない能力ではあるけれど、反面それはある国々に対しては無言の圧力になる。僕たちが情報収集衛星を持っているということが政治的にどんな意味を持っているのか、もう少しちゃんと考えてもいいんじゃないだろうか。

たとえば、情報収集衛星の解像度を10センチクラスまで上げるべきだという話。10センチという解像度は、戦場で相手がどんな装備品を持っているか、こちらが加えた攻撃がどれほどの効果を上げているかを確認するために必要な解像度、つまり実際にそこに兵士を送り込むために必要な解像度だという見方もできる。「衛星の更なる性能向上を!」と主張する人たちは、それが他の国からどう見えるかを分かっているだろうか。

相手の攻撃能力を減ずる、ということは、こちらの攻撃能力を上げるというのとまったく同義だ。こちらの意図がどうあれ、相手はそれを攻撃の意思と取る。そのことを忘れて、偵察衛星の話やミサイル防衛の話をするのは、やっぱりちょっとおかしい。弾が出ないから武器じゃない、という考え方は改めたほうがいいんじゃないかな。

§ **付記

誤解のないように付け加えておくと、僕自身は「戦争」とか「軍事」という単語はあまり好きじゃない。情報収集衛星も諸手を上げて賛成出来ない。でも、だからこそ、せめて知識ぐらいはちゃんと身につけておきたいし、その意味はちゃんと理解しておきたい。

情報収集衛星は、戦争をするためじゃなくて、戦争を回避するためのものだと、僕たちはいつまで胸を張って言えるだろう?たぶん、その境界線はすごく曖昧で、常にゆらゆらと揺らいでいる。その線を越えるとき、僕たちはそのことに気付くことができるだろうか?ちょっと不安。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
> 中の人 (2007-02-28 19:38)

一言で言うと国家レベルのオナニーかな。

> ブロガー(志望) (2007-03-01 21:37)

お邪魔します。<br> ミサイルの発射を探知するのは「情報収集衛星」では無<br>く、「早期警戒衛星」なのですが。早期警戒衛星はロケット<br>噴射の大量の赤外線を探知するのですが、「地球を赤外線で<br>サーチ」は温暖化対策に使って欲しい。