2005-10-15
§ もう一つのフロンティア
露、日本に宇宙船共同開発を打診 (Sankei)
ようするに「Kliper」を一緒に作りませんか?というお誘いです。6人乗り、軌道滞在時間10日間、最大積載量は約500kg、開発費1000億円、完成予定は2012年。本当に1000億で、2012年までにできるのなら、悪くない出資かもしれませんね。この開発計画に参加すれば、宇宙へ行く手段としてもう一つ別な方法を持つことができます。ただし、この開発計画に足を突っ込むということは、ロシアやESAが目指している「アメリカが捨てた後のISSを維持管理する」という方針に歩調を合わせることになります。日本側がどう考えようと国際的にはそう写るでしょう。このお誘いはなかなか重要な問いを日本に投げかけているんです。
え、僕?僕はISSを維持する方がいいと思いますよ。せっかくなので、僕の妄想を書いておきましょうか。
これは異論がある人も多いかもしれませんが、僕は国家はなるべく速やかに衛星軌道を民間に譲り渡すべきだ(あるいは、積極的にその支援をすべきだ)と思っています。宇宙が商業化されることに鼻白む人もいるようですが、僕は宇宙を目指すための方法や価値観はなるべく多様なほうがいいと思います。なにより「誰もが気軽に宇宙にいける」という未来を実現するためには、それが一番近道ですからね。
月面の開発はしばらく国家プロジェクトとしてしか成り立たないでしょう。でも、民間企業の有人宇宙船が自力で衛星軌道に乗る日はさほど遠いとは思いません。彼らを全面的にバックアップし、宇宙へ出て行くことの敷居を下げることができれば、宇宙開発のあり方そのものが大きく変わるはずです。
そして、僕は日本の宇宙開発は、「もう一度人類を月に送り込む」というプロジェクトよりも、「商業有人宇宙飛行のための基盤を築く」というプロジェクトのほうが向いていると思います。もちろん、月を目指すのはなかなか魅力的な目標ですが、日本の限られた予算と人的リソースをその特殊な目標に裂くのはあまり得策だとは思えません。日本の技術開発は、既存技術の信頼性を高めたり、コストを下げたりという実用化の段階、商用レベルのものを作るという段階で強みを発揮してきました。この強みは、月へ行くというフロンティアの開拓よりも、むしろ有人宇宙飛行の商用化という場面で発揮されるんじゃないでしょうか?
あの場所をフロンティアではなく、「誰もが気軽に行ける場所」にするためにはどうすればいいか?そろそろ、そういうことを真面目に考え始めてもいい頃だと思います。いつまでも、宇宙開発を国家プロジェクトの中に押し込めておくのは、もうやめにしませんか?
もし、仮に日本が「商業有人宇宙飛行のための基盤づくり」という目標を掲げるなら、そのプラットフォームとしてふさわしいのは、間違いなく月ではなくISSです。ISSと同じ規模の施設を軌道上に上げられる民間企業はいません。でも、あそこにドッキングできる有人機を開発できる企業なら、近い将来必ず出てくるはずです。ISSは宇宙空間の民間利用のためのプラットフォームとして最適なんです。
必要なのは、月や火星に行ける能力を持った宇宙船ではなく、信頼性の高い打上げ機と堅牢で安価な軌道往還機、そして軌道上で様々なミッションをこなしうる汎用性の高い軌道プラットフォームです。そしてそれらは、自国の技術として抱え込むのではなく、商品として外販されるべきです。複数の民間機が軌道上に滞在することを想定するなら、ミッションの自動化や、恒常的な管制/通信システムの構築といったインフラの整備も必要でしょう。もちろん、規格の統一や法整備、パイロットやエンジニアの教育システムといった技術以外の面での開発も必要になります。
やるべきことは山のようにあります。でも、決して不可能ではありません。決して派手なプロジェクトじゃありませんが、間違いなく世界を変えます。たぶん、人類がもう一度月に行くよりずっと大きく変えるでしょう。
まあ、とはいうものの、もちろんこれは、いちロケットファンの妄想に過ぎません。実際には ... たぶん、難しいでしょうね。でも、僕はできれば日本の宇宙開発にこういう道を歩んで欲しいと、半ば本気で思っているんです。