Garbage Collection


2004-04-20

§ [clip] Daily Clipping

First aerospike engine flight test successful (SpaceFlightNow)

『エアロスパイクエンジンのフライトテストに初めて成功』と見出しには書いてありますが、ちょっと嘘があります。正確には、初の固体燃料エアロスパイクエンジンのテストに成功したというニュースですね。液体燃料によるエアロスパイクエンジンはカルフォルニア州立大の学生とガーベイ・スペースクラフトが共同で開発、2003年10月に実験に成功しています。

California Team Conducts First Powered Liquid Propellant Aerospike Flight Test (SpaceRef.com)

NASAのドライデン飛行研究センター、アメリカ空軍フライトテストセンター、ブラックスカイコーポレーションが共同で開発を行ったとのこと。開発者は例のごとく「革命だ!」と叫んでいるようです。どうやら、大型ロケットに応用するよりも、とりあえず各種飛行テスト用のプラットフォームとして使うことを狙っているようです。まあ、作ったのがNASAで航空機開発を行っているドライデン飛行研究センターですから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。

前回、Junkyard Reviewでやろうかな、なんて言ったまま放ったらかしだったので、少し解説しておきましょう。


NASA Dryden Flight Research Center

上の写真がエアロスパイクエンジンです、見ての通りロケットエンジンに特徴的なベル型のノズルがありません。代わりに、円錐形の金属のパーツがロケットの最後部についています。これがエアロスパイクエンジンの最大の特徴です。ロケットエンジンのノズルは、噴射されるガスの圧力と外気圧で最適の形状が決まります。細かい説明は省きますが、ベル型をしているノズルは、地表付近では細長い形の方が効率がよく、逆に高空では出口の方が広い、横に広い形の方が効率が良くなります。

つまり、従来型の固定されたベル型のノズルでは最大の効率が得られるのは飛行中のごく限られた時間だけなのです。このロスをなるべく少なくする方法の1つが、このエアロスパイクエンジンです(エンジンそのものは既存の物と大きく違わないので、エアロスパイクノズルという言い方もします)。

エアロスパイクエンジンは、従来のノズルの代わりを空気が果たします。上記の写真の中で、ガスの噴出口は円錐形のパーツの根元、円周上のスリットの中にあります。従来のロケットエンジンのようにガスの流れを導くノズルがありませんから、ここから吹き出したガスは傘のように水平に広がろうとします。しかし、ロケットが前進しているために、噴射ガスは前方からの空気の抵抗を受けて後方に向かって押し曲げられ、結果的にガスが理想的な形を保つのです。高度が上がって気圧が低くなればなるほど、前方からの空気の流れが薄くなり、ガスはより大きく広がるようになります。この、吹き出すガスが広がろうとする力と、上昇するに従って薄くなる空気による圧力のバランスが取れれば、どの高度でも最大の効率を発揮するエンジンが出来るはず、これがエアロスパイクエンジンの原理です。

NASAの次世代シャトル候補として開発が進んでいたX-33は、このエアロスパイクエンジンを搭載し、外部のブースターなどに頼らずに軌道までの飛行を行う完全再使用型を目指していましたが、初飛行を待たずに予算を切られてプロジェクトが中止されてしまいました。ちなみに、X-33に搭載されていたのはガスの噴出口を円周上ではなく一列に並べた、リニアエアロスパイクエンジンというやつです。参考)Junkyard Review

今のところ、ようやく飛行テストに成功したというレベルで、どれくらいの効率が出ているかもはっきりしていません。予想されている性能が出せるのなら、整備コストが下げられたり、重量が軽減できたり、いいこと尽くめなんですが、まだかなり先のことになりそうです。

本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを入れる]
> kemuri (2008-11-18 14:51)

エアロスパイクノズルは冷却が困難と聞きましたが、イマイチ理由がわかりません。教えてください。

> isana (2008-11-18 16:21)

ちょっと気になったので調べてみました。私も専門家ではないので、詳しくは分かりませんが...<br>どうやら、センターのスパイク部分がベル型ノズルに比べて高温になるから、ということのようです。<br><br>ベル型ノズルの場合は、燃焼室で点火され、高温になったガスがノズルから吹き出す事で推進力を得ますが、<br>噴射ガスのもっとも高温になる部分は、ノズルの中心の何もない部分に来ます。しかし、エアロスパイク<br>エンジンの場合は、中心のスパイク部分が燃焼室から出た高温のガスに直接さらされてしまいます。<br><br>つまり、エアロスパイクエンジンのスパイク部分には、ベル型ノズルの燃焼室と同じ耐熱性能が<br>必要ということになります。ベル型エンジンの燃焼室は小さくて済みますが、エアロスパイク<br>エンジンのスパイクは小さくできません。<br><br>エアロスパイクエンジンの冷却が難しい、というのはどうやらこういうことのようです。<br><br>http://www.aerospaceweb.org/design/aerospike/x33.shtml<br>http://maecourses.ucsd.edu/mae155a/nlv.pdf ※PDF<br>http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Aerospikeprinciplediagram.gif

> kemuri (2008-11-18 18:54)

たいへん参考になりました。ありがとうございました。