•Mitologia hot/20100526シンポジウム
東京大学公共政策大学院/有人宇宙システム(株)公開シンポジウム
次期国際有人宇宙計画のあり方 -多面的制作討議について
日時:2010年5月26日(水) 13:30~18:00
場所:東京大学小柴ホール
目次
13:30 主催者あいさつ
<城山英明・東大公共政策大学院教授>
●公共政策大学院は法律・経済・工学の融合体。
エネルギー、環境、電子政府等のテーマを扱ってきた。
今回、宇宙コミュニティの外からの企画として、有人宇宙、宇宙政策のあり方
を討議したい。
13:37 前原大臣メッセージ
<横田参事官 代読>
●5/25は宇宙開発戦略本部+月探査懇談会で忙しい一日だった。
●世界の宇宙政策はターニングポイントにある。
→米国はNASA予算増で技術革新、民活に注力。中国が台頭。
●有人宇宙は非常にコストがかかる領域。
→日本として国際協調を進め、新興国も積極的に呼び込むことが必要。
13:41 日本の宇宙政策を巡る科学技術政策と国際関係
<薬師寺泰蔵・政策研究大学院大学客員教授>
●日本の宇宙政策の問題点
・打ち上げ数が極端に少ない。
・意志決定が不明確。
→開発はともかく、利用に関する意志決定を行っていない。
・国際政治的には古いパラダイムに固執している。
→米国のまわりに日・欧などの「奉行国」が取り巻くスタイル。
・人的資源が固定化・そのレベルが低下
→既に原子力工学領域が進んでいる道を宇宙も進むのか?
例えばM-Vをやめた瞬間、固体ロケット分野の人間力は一気に枯渇した。
●新しい宇宙政策の提案
・有識者会議の提言は、以下の4つが重要項目。
(1) 宇宙に対してフレキシブルな能力を維持
安全保障のようなハードパワーの対極にあるソフトパワーを強める。
(2) ヨーロッパ型の民需の活性化・拡充
現状の日本のロケット投資の90%は国需。
(3) 日本の宇宙政策を決める専門家意志決定機関の設立
ただし、文科相は反対している。
(4) 開発と利用の連携
利用する側のメッセージの取り込みが現状弱すぎる。
●現行の専門調査会方式の限界
・直接調査した人間の下層からの意見が見えてこない。
・有識者会議では必要な関係者を100人規模で一同に集めて意見集約するという
新しい政策決定プロセスを立ち上げた。
→薬師寺教授は「そんなこと不可能」と考えていたが、有識者会議の若手
が新しいパラダイムを作り上げてしまった。
曰く「自分は古いパラダイムに属する人間と再認識した」と。
●科学技術政策から見たインプリケーション
・宇宙政策の歴史的見解は、「独が先導、米ソも日も後発国」。
・日本は民生(非軍事)で、「坂の上の雲」方式でやってきた。
→坂の上の雲…日露戦争当時の日本の人材育成は「必死のキャッチアップ」
・ただし、この「坂の上の雲」では「上を越えられない」
・科学技術外交を考えると、「坂の上の雲」からの脱却が必要。
14:06 アメリカの宇宙政策と次期国際有人宇宙計画
<John M.Logsdon・ジョージワシントン大学宇宙政策研究所(SPI)前所長>
●米国の宇宙政策の現状
・将来の有人宇宙飛行に関して抜本的な変更を行っている最中。
現場は流動的で、混乱も生じている。
・オバマ大統領の宇宙政策は「将来に対して正しいか?」という議論が進行中。
●ブッシュ前大統領の政策
・2004/1に提示。個人的には全般としては良い政策論であったとの評価。
・骨子は「2015年ISS撤退、そして月へ(2020年までに月に戻る)」。
・2005/9にコンステレーション計画をNASAが立ち上げたが、それに対して予算
枠を充分に確保しなかったことがあり、計画遅延・迷走→計画への非難へ。
●オバマ大統領の政策
・「NASAは漂流している。好まくない状況」→オーガスチン・レポートへ。
・「コンステレーションは実施可能な計画ではない」→新priorityの確立。
・向こう5年でNASA予算は総額60億ドル増額。
→予算計画全体の中で、増額が明言された分野はごく少なく優遇といえる。
・2010/2に政策発表。2010/4大統領演説。
・ただし、政策の詳細仕様が発表されず→懐疑派の不安・反対声明を助長。
・2010/5現在も、政策が実現可能か、流動的な状況が続いている。
・実現手段の構築については抜本的な変更が行われているが、具体的な到達
目標で変更されたのは「2020年の月」のみ。
→Logsdon氏としては、オバマが月に人を送らないとしたのは大いに不満。
・実はブッシュは、「2015年ISS撤退」を「明言」していない。
→予算上、2015年以降ゼロとなっているというチャートで暗示したのみ。
●現政策の論議の状況
・ISS延長については、米国内では目立った是非議論の対象になっていない。
→オバマは、ISSの2025年以降の継続運用を提示し、ブッシュ政策よりも
より多くの宇宙飛行士を宇宙に送り込むことを目論んでいる。
・クルー・カーゴ輸送計画での民活シフトは、米国内で物議を呼んでいる。
→宇宙にヒトを安全に運べるのはNASAだけだという認識が強い。
ただし、オバマは米国が国家として有人飛行技術開発を放棄したわけ
ではないことはきちんと理解すべき。
・その他論議を呼んでいるのは、「スペースシャトル退役」「月をやめたこと」
「Capability開発(=きちんとした目的地を決めない方式)の是非」。
→特に「月にいく→やめる」という方針転換に対し、世界各国がどう反応
するのか、それで米国がリーダーたり得るのか? という懸念が強い。
・今後何が起こるかは「判らない」。場合によっては、議会がNASAの増額予算を
認めない可能性もある。
・もしケネディが生きていたら、自分が月へ行くと言ってから49年後に、人類
が地球の裏庭に留まっているという現実が信じられないに違いない。
14:43 欧州の宇宙政策と次期国際有人宇宙計画
<Kai-Uwe Schrogl・欧州宇宙政策研究所(ESPI)所長>
●問題提起…過去の宇宙開発の経験から欧州人が得た知見
・ヒトが宇宙に行くことで、地球の諸問題など解決できるワケではない。
・宇宙工場なんて持つことができるなんて決して言ってはいけない。
↓
・「正直な分析に基づいて」政治的判断を行い、新解釈を見いだすことが重要。
●欧州宇宙活動の政策的判断
・宇宙開発には、
功利主義分野(市場開拓、雇用確保など)
超功利主義分野(知識、本質理解など)
の両極がある。
→ESPIとしては、超功利主義分野の充足を宇宙飛行士がもたらすという道
を強化していきたい。
・欧州は「米ロの過去実績は受認するが、中国が築きつつある実績は認め難い」。
→同じアジア極の日本はどう感じているのか? 中国に抜かれていいのか?
・有人宇宙については、ISS(コロンバス)の長期運用継続を強く求めていく。
→欧州宇宙飛行士団は、直近の新規募集で10000人近くの応募があり、非常
に有人宇宙への関心が高い(最終的に6人選定)。
●ESAの宇宙開発アプローチにおける文化的・社会的側面
・20カ国超協同体としての欧州アイデンティティの強化。
・学生のScience&Technologyレベル向上のためのモチベーション。
・国際政治における欧州のポジション向上(平等・協調といったことを重視する
欧州的国際社会を目指す上での発言力強化)。
・他の技術分野(エネルギー分野での宇宙発電など)とのシナジー。
・欧州の尊厳の維持。
→尊厳は市場価値が伴うことが不可欠。このままでは世界の新興国は、欧州
をパスして中国をパートナーとして選ぶ様ようになってしまう。
・国の代表ではなく、人類共通使節としての宇宙飛行士という理念の世界的共有。
●宇宙分野での日欧協力の可能性
・H-IIA/アリアン、きぼう/コロンバス、HTV/ATV、はやぶさ/ロゼッタ といった
プログラム構造の類似性から、大いに協調を進めていきたい。
・イコールパートナーシップを構築したいのであれば、各種資源を適正に投入する
ことが必要。
15:27 休憩
15:47 日本の宇宙政策と次期国際有人宇宙計画
<長谷川義幸・宇宙航空研究開発機構執行役>
●はじめに
・日本の有人宇宙活動は、1985年のステーション計画参加からはじまった。
・有人宇宙活動は、科学・技術、産業、教育・人材育成、外交、政治など多面的。
●国際宇宙ステーションの経緯
・ISSは2010年に完成(ロシアは独自に2030年までの維持更新計画を提示)。
・米ロが「ISSの基礎」、日欧が「ISSの機能向上」、カナダが「ISSの不可欠要素
(ロボットアーム)提供」
●日本としての参加成果
・有人宇宙技術の獲得・高度化
・科学的成果や社会ニーズに対応した成果の創出
・ISSでの日本のプレゼンスと国際協力
・世界で活躍できる人材の育成
・国民の自信と希望
・その一方、まだ獲得できていない技術も
→空気再生、水再生技術、衛生(トイレなど)、有人輸送、回収技術…
・HTVを保有・運用できるようになったことで、日本の存在感が一気にあがった。
●次期国際有人宇宙計画のあり方
・人類の持続的な発展
・安全保障上、高度な技術に裏打ちされた有人宇宙技術を保有することは、
総合的な安全保障に資する。
・ISSは参加各国がいずれも継続する意向
→そこからの脱落は国家としての発言力低下に繋がる。
唯一のアジア参加国として、アジア外交への重要な貢献材料とする。
・国際宇宙探査協働グループ (ISECG)は、有人月基地から方針転換し継続。
・最終的には「地球人」としての意識の芽生え、新たな価値観醸成へ。
16:21 宇宙政策に関する多面的政策論議に向けて
<城山英明・東大公共政策大学院教授>
●宇宙政策に関する多面的政策論議に向けて
・課題解決型の戦略イノベーション支援へ。
→重点分野設定型政策から、課題解決型政策への転換。
事業仕分けにおける科学技術への戦略の欠如の指摘が多数。
有識者会議における優先順位付けの重要性の強調。
・戦略的意志決定
→前提として、宇宙政策の多次元的な社会的影響を明らかにする必要性。
・アセスメントと戦略的意志決定の峻別が必要。
→なるべく幅広く影響を明らかにする。
具体的対応に向けた多様な選択肢を示す必要。専門家の専門的判断だけ
で物事を決めてはいけない。
●論点
・具体的意志決定…分業も活用しつつ、どこを戦略的に確保するか?
・体系…宇宙政策における最終目標とステップ。
・諸影響・便益…国際協力、安全保障、国際ルール設定、研究開発 など。
・有人宇宙計画における民間との役割分担。
・利用コミュニティとの関係。
・政府の役割と政府からの「距離」の重要性。
→アセスメントと意志決定の距離も含む。政府から距離を確保した「場」
の役割の重要性。
16:45 パネルディスカッション「公共政策としての次期国際有人宇宙計画と宇宙政策討議空間のあり方」
<パネラー:講演者5名>
●議論
・有人宇宙体系の中で何を重点的に目指すのか?
・社会との関わり
・実行していく上でのユーザーコミュニティの巻き込み方のしくみ
・このような政策論議のためのしくみ(シンクタンクなど)
●topics
・ブッシュはナショナリズム、オバマはパートナーシップ。
・ケネディの時代には「宇宙にヒトが行くこと」が重視されたが、現代は
果たしてどうか?
・月や火星に行くことの是非は、その究極の目的に関する議論を重ねないと
ダメ。「ヒトが行ったことがないから」だけでは弱すぎる。
→究極の目的の明確化…「行けるからではダメ、何故行くのか?」
・HTVは日本の重要な技術成果であることは認めるが、その維持や回収機と
しての熟成は、ユーザーを含めたコミュニティで議論することが重要。
・ESAのような組織は、アジア極にも構築可能では?
→すでに中国がリーダーシップを発揮し始めている状況。日本は既に
キャッチアップする立場に成り下がっている。
リーダーになりたければ、政治的にも経済的にも必要なリソースを
投入すべき。
・日本が何故国際協力で成功してこなかったか?
→日本は地球環境監視などの観点で、思慮深いイニシアティブが働いて
いなかった(=戦略がない)。本音は「売りたいだけ」。
外務省が宇宙政策に関わっていない現状が端的にそれを示している。
・米国では「ヒトが宇宙に行くべきか?」などというプリミティブな議論は
しない。どうしたら「ヒトがよりよく宇宙に行く手段を構築できるか?」
という議論に集中する。
→既に、宇宙=国益確保のための戦略の場というコンセンサスが確立。
【補足】
・会場キャパは200+30(外部モニタ席)。ほぼ満員でした。
・参加者は、民間企業の50歳前後の層(部長クラス)が圧倒的多数。
・大学で行われたイベントでしたが、大学生はごく少なかったです。
以上です