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数式と想像力


『宇宙工学入門』『宇宙工学入門II』茂原正道/木田隆 培風館
給料が出たいきおいで思わず買ってしまった。いや、前から欲しかったんだけどね。ロケットを打ち上げて、衛星を軌道上に乗せて、姿勢を制御するところまでが一冊目。二冊目はドッキングとか、惑星間飛行とか、宇宙での位置測定の話。お、面白そうと思う人もいるかもしれないが、実態はごく真面目な専門工学書。数式沢山。専門用語沢山。あはは、全然わかんねーや。

ちょっと言い訳をしてみよう。

中学校のときに『航空機の設計技術』という専門工学書を大枚はたいて買ったことがある。目も眩むような数式の山を一つ一つ眺めながら「この数式で翼の面積が出せる」「この数式で機体の強度が計算できる」と想像をめぐらせていた(数式の理屈はちっともわからない、数式のキャプションを読んでるだけ)。それはそれで、結構楽しかったのを覚えている。いってみれば、そこには「飛行機はなぜ飛ぶか」みたいな入門書には書いていない"秘密"が書いてあった、ぼくにはわからない言葉でね。

「翼型の上を空気が流れると、翼の上と下に気圧差が生じて上に持ち上がる力が生まれる」うん、なるほど、なるほど。でもね、入門書にはその先は書いていない。どれぐらいの速度だとどれぐらいの力が生まれるんだ? どれくらいのサイズの羽とスピードがあればあのでっかい鉄の固まりが宙に浮くんだ? 飛行機の設計技師はその秘密を知っている。だから彼らの作る飛行機はちゃんと空を飛ぶ。

中学生のぼくは自分の頭の中を飛んでいる飛行機にその"秘密"を加えてやりたかった。だから解りもしない専門書をこづかいはたいて買ったのだ。この本の中に飛行機の翼のサイズを決めるルールが書いてある。この数式に数字をあてはめればその答えが出る。その事実だけで十分だったのかもしれない。いってみれば、この本はぼくにとって"たどりつけない宝島の地図"だったのだ。その地図の上に載っている情報より、その地図が宝島の地図で、自分がそれを所有している、ということのほうがよほど意味がある、そういう地図。

人に勧めようとは少しも思わないが、想像力にはそういう使い方もある。

last update Feb.10 2001


by isana kashiwai
isana.k [at] gmail.com