Columbia Lost - A personal coverage of the Space Shuttle Columbia Accident

Jan. 28 2003 - Feb. 03 2006 by 柏井勇魚(KASHIWAI, Isana)

これは、2003年2月1日のスペースシャトルコロンビア事故、およびその後の事故調査に関して、本サイト上で書かれた文章を一か所にアーカイブしたものです。すでにリンク先が移転・消失しているものもありますが、当時の記録という意味でそのまま掲載します(一部、画像の直リンクをURLに改めました)。

Jan. 28 2003 Landing:None.

http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/missions/51-l/mission-51-l.html

日本では、中継が終わり番組が終了した後、突然あの映像が流れました。真夜中のテレビの中、白い煙と爆発の炎と青空のコントラストが、とても綺麗だったのを覚えています。忘れもしません、あの瞬間、自分の中で何かが死んだような気がしました。よほどショックだったんでしょう、今でもたまに夢に出てきます。

(Jan. 28 2003 updated)

Feb. 02 2003 事故?

スペースシャトルコロンビアが、大気圏突入寸前に交信が途絶え、空中爆発した可能性があるとのニュースが流れています。詳細は分かっていませんが、何らかの事故がおきたことは確実なようです。

ニュースでは煙を引きながら幾つかの破片に分かれて落下する物体の映像が度々流されています。(0:10)

(Feb. 02 2003 updated)

Feb. 02 2003 関連URL

NASA Hunman Space Flight
http://spaceflight.nasa.gov/index.html
公式サイト(0:25現在接続できません)

Shuttle公式
http://spaceflight.nasa.gov/shuttle/

CNN.COM
http://www.cnn.com/2003/TECH/space/02/01/shuttle.columbia/index.html

SpaceFlightNow
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/
MissionStatusReport
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/status.html

(Feb. 02 2003 updated)

Feb. 02 2003 続報

情報が錯綜しており、何が正しい情報なのか分からない状態です。

通常の再突入では、着陸20分前から12分前ぐらいが最も高温になります。今回事故が起きたとされているのはこの時間帯。突入角度のミスなどによって限界以上の熱がかかったか、なんらかの原因で姿勢を乱し、機体に負荷がかかって分解したと思われます。

上空6万メートル付近で事故がおきたとの情報が正しければ、まだ速度は時速2万Kmを超えています。この速度で安全に脱出する装置はスペースシャトルには備えられていません。

コロンビアは通常より高い高度から突入をしようとしていたらしい、との情報も流れています。

打上げ時に外部燃料タンクに損傷があったとの情報もあります。ただ、損傷を受けたのが外部タンクだけだとすれば、切り離された後なのでほとんど関係が無いはず。本体に何らかの影響があったとすれば、そのかぎりではありませんが・・・。

破片が見つかったとのニュースが入っています。(01:10)

(Feb. 02 2003 updated)

忘れないで下さい、コロンビアには6人のアメリカ人宇宙飛行士と、初のイスラエル人宇宙飛行士の7人が乗っていました。可能性はとても少ないかもしれませんが、彼らが生きていることを祈りたいと思います。

(Feb. 02 2003 updated)

NASAのトップページが臨時のリリースに変わりました。最新の情報はここに掲載されます。(1:30) http://www.nasa.gov/index.html

Feb. 02 2003 雑感

今回、打上げ時に外部燃料タンクの耐熱タイルが剥離し、シャトル本体に接触したという事故がありました。当初、この事故はほとんど影響がないとの発表がありましたが、今回これが引き金になった可能性があります。

また、シャトルが通常より高い高度から突入を開始しており、突入角度がきつかった可能性があるとのことです。当然ながら、大気の圧縮熱が通常より上がりますから、機体への負荷が高くなるでしょう。

もしかしたら、この二つの原因が重なったことによる事故なのかもしれません。

報道では「爆発」と表現されていますが、映像を見るかぎり爆発ではなく、機体に何らかかの負荷がかかったことによる空力的な破壊だと思います(一気にではなく、徐々にばらばらになっていく様子がはっきりと映っています)。

チャレンジャーの時は、2年8ヶ月の間、有人宇宙飛行が凍結されました。今回も、シャトル計画、国際宇宙ステーション計画などに大幅な変更が出るはずです。日本が予定していたモジュール「きぼう」も打ち上げはかなり先になるでしょう。部品劣化などもありますから、そのまま置いておくわけにも行きません。本当に打ち上げられるかどうかも微妙なところです。

スペースシャトルはあと3機ありますが、このまま運用されることは無いでしょう。国際宇宙ステーションは、今後しばらくの間ロシアのソユーズとプログレスに頼ることになります。ただ、この機体も製造ラインが止まっており、存続が危ぶまれている状態です。

国際宇宙ステーションそのものも、補給のかなりの部分をシャトルに頼っていますから、維持管理はかなり難しくなるでしょう。プログレスだけでは間に合わないかもしれません。今回の事故によって、ステーション計画から脱退する国が出てくれば、最悪計画の中止の可能性もあります。唯一、元気なのは今年10月に独自の有人宇宙船を打ち上げようとしている中国でしょうか。

悪夢のようです。つい先日、17年前の事故の話を書いたばかりでした。ぼくたちは、あそこに行ってはいけないんでしょうか?いつもなら、そうじゃないんだと叫ぶところですが・・・。

いま、人間があそこに行く方法は、たった2つしかありません。スペースシャトルとソユーズだけです。スペースシャトルは20年、ソユーズは30年前の設計です。NASAは次世代機の開発を進めていましたが、資金超過のため計画を中止しました。新機種開発は望み薄です。

また、モラトリアムがやってきます。今度はどれくらいの長さになるんでしょうか。(3:00)

STS-107乗員

船長:
リック・D・ハズバンド(Rick D. Husband)

パイロット:
ウィリアム・C・マクール(William C. McCool)

ペイロードコマンダー:
マイケル・P・アンダーソン(Michael P. Anderson)

ミッションスペシャリスト:
デビッド・M・ブラウン(David M. Brown)
カルパナ・チャウラ(Kalpana Chawla)
ローレル・クラーク(Laurel Clark)
イアン・ラモン(Ilan Ramon)※初のイスラエル人宇宙飛行士

(Feb. 02 2003 updated)

気象レーダーが捉えたシャトルの破片(SpaceFlightNow)
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030201columbia/radarimage.html

(Feb. 02 2003 updated)

続続報

通信が途絶する寸前に、左翼のセンサーに異常が見られたとのNASAの公式発表があったようです。
左翼の各部に設置されたセンサーが次々に機能を失うという現象が数分前からおきていたとのこと。

打上げ時のタンクから剥落した破片がシャトルにぶつかった事故との関連が検討されていますが、
今のところ、はっきりとしたことは言えないようです。(15:25)

SpaceFlightNow記事
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030202leftwing/

打上げ時にシャトルの左翼にタンクの破片(氷か?)がぶつかる様子(FloridaTodayy) http://www.floridatoday.com/columbia/debrisvideo.htm

FroridaToday特集ページ
http://www.floridatoday.com/columbia/

(Feb. 02 2003 updated)

NASA長官オキーフ会見全文(PDF)
http://www.nasa.gov/columbia/Okeefe.pdf

大統領会見全文
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2003/02/20030201-2.html

NASAにコロンビア事故の特設サイトが出来ているようです。
http://www.nasa.gov/columbia/

(Feb. 02 2003 updated)

Feb. 03 2003 Columbia Lost 2003.02.03

ここに書かれている情報は、最新ニュースではありません。NASAはつながりにくい状態が続いているので、FloridaTodayかSpaceFligntNowを見られることをお勧めします。

3度目の公式発表がありました。
シャトルは事故直前に大きく左傾斜しており、オートパイロットが姿勢を修正しようとしているときに通信が途絶えたということです。また、左翼の温度が通常の4倍もの数値を示していたことも明らかにされました。

これで、姿勢制御系にもトラブルが起きていた可能性が出てきました。姿勢の乱れが先なのか、温度上昇によるトラブルが先なのか、まだよく分かっていませんが、徐々にパズルのピースが出始めました。

FloridaToday記事
http://www.floridatoday.com/columbia/020203wing.htm

すでに、一部の乗務員の遺体も見つかっているようです。一方でシャトルの破片をオークションにかけようとしているばか者もいるそうな。ったく。

運用がちょっと心配なISSですが、昨日ロシアから補給用のプログレスが無事打ち上げられました。これで、とりあえず6月までは大丈夫です。ただ、今後の運用体制にどんな変更が出るのかはまだはっきりしていません。ソユーズで交代要員を上げて運用を続けるのか、あるいは全員降ろすのか。おそらくそのあたりの判断になるはずです。

米政府は宇宙開発関連の予算の増額を決めたようです。緊縮財政の安全面への影響を考慮、新機種開発も含めて予算を増額するとのこと。とりあえずは、いいニュースなんでしょう(今さらという感じが漂うのはいなめませんけどね)。

大統領が確約したとおり、有人宇宙飛行は止まらないはずです(もちろんある期間は凍結されるかもしれませんが)。それは、個人的な希望というより(もちろんそれもありますが)、純粋に政治的にアメリカがそういう国だからです。言い換えましょうか、あそこの政治は国民の「フロンティアスピリット」を最大限利用することで動いています。なにしろ、傷つけられたプライドを回復することに、一番情熱を注ぐ国ですから。

いつになるかは分かりませんが、アメリカは再び独自の有人宇宙飛行計画を発表して「勝利宣言」をするはずです。その時、どんな絵がかかれるんでしょうか。あるいは、日本はどういうスタンスを取るんでしょうか?なんにしても、大きく地図が書き変わるはずです。これは、夢や希望ではなく、高度に政治的な問題です。

サイトの趣旨からは外れますが、とりあえず、自分自身の記録としてウォッチを続けます。それ以外に、この喪失感とうまく折り合う方法が分からないんです。こんな所で、関係者でもなんでもない自分がぶつぶつ何か言っているのもおこがましいとは思いますが・・・。たぶん、しばらくロケットネタが続きます。ご了承ください(できるだけ他の話もしようとは思いますが)。

とりあえず、自分への宿題として、もう一度ゆっくり考えたいと思います。なぜ、私たちはあそこに行かなければいけないのか?なぜ、こんなにもあそこに行きたいと望むのか?人類の新たなフロンティア、なんてわけのわからないお題目に生命を賭してまで挑む理由があるんだろうか?いまは何もかもが陳腐に聞こえます。

それでも、宇宙飛行士たちはロケットに乗るでしょう。夢と希望を口にしながら。それは分かっています。
純粋に個人的な望みとして、ぼくは胸をはって彼らに「いってらっしゃい」と手を振りたい。そのための宿題です。
それが、ただの「ロケットフェチ」にできる、せめてもの弔いです。

(Feb. 03 2003 updated)

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Feb. 03 2003 Columbia Lost 2003.02.03-2

ここまでに分かっている情報をまとめましょう。
※この情報は既にアップデートされています。最新記事をあわせて参照してください(Feb.04.2003)

更新途絶までにシャトルに起こっていた現象について(SpaceFlightNowの記事抄訳)
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030202investigation/

8:53(EST)
左翼の4つエレボン(大気中でシャトルを操縦するために使う主翼の後端の動翼)を制御する油圧装置の温度計の値が計測不可能な値まで低下します。

左着陸脚のストラット・アクチュエイターとアップロック・アクチュエイター(着陸脚を引き出すための装置)の温度が5分間で20度から30度まで上昇します。これらの温度計は左着陸脚を収めている空間に設置されているものです。

※ここで重要なのは、最初に機能を失ったエレボンの温度計の配線が、この左着陸脚を収める空間を通っているということです。

8:54(EST)
胴体中ほどの左翼と胴体の境目に設置された温度センサーの値が通常ではありえない数値を示します(この温度センサーは翼の上部に設置されているものです)。温度は5分間で60度まで上昇しています。逆に、反対側のセンサー(右翼上部)は通常値の15度までしか上昇していません。

※ここで興味深いのは、温度が上昇した左翼の温度センサーのすぐ内側、ペイロードベイ(貨物室)内の極低温タンクの温度センサーは通常値を示していることです。これはペイロードベイ内の温度が通常と同じ値だったことを示しています。

8:58(EST)
エレボンのロールトリムが上昇します。これはなんらかの原因で、左翼の空気抵抗が上がったことを示しています。これはタイルの破損か脱落を示唆するものかもしれませんが、はっきりしたことは分かりません。

ほぼ同時に、左着陸脚のタイヤ圧と温度計の数値も消失します。これは、タイヤそのものが失われたのではなく、計測器が機能を失ったことを示していると思われます。なぜなら、計測値の消失に若干の時間差があるからです。

8:59(EST)
再びエレボンのロールトリムが上昇し、エレボンが動作します。これは、左翼の空気抵抗の増加を打ち消すために、フライトコントロールシステムがシャトルを右へロールさせようとしていることを示していると思われます。

この直後、シャトルは通信を途絶します。

もう一つ、今回の事故と関係が深いとされているのは、1月16日のシャトルの発射時に起きた、外部燃料タンクからの剥落物がシャトルの左翼に衝突した事故です。発射の約80秒後に、最大20インチ(50cm)幅ほどの物体が外部燃料タンク(中央のオレンジ色のタンク)から剥がれ落ち、シャトルの左翼下面に衝突しています。この件については、その後数日間に渡って検討され、再突入に問題なしとの結論が出されました。

この2つの事故を結びつけるのは、早計かも知れませんが(軌道上のゴミの衝突の可能性も残されています)、もし、発射の際の剥落物がシャトルの右着陸脚を収めるドア部分に衝突して、大気圏突入時のシャトル腹部の温度が3000度を超えたとしたら、このような事故がおきる可能性があります。

着陸脚を収めている場所は、シャトルの中でも熱に最も弱い部分です。しかし、かつて行われた分析では、この部分のタイルが一枚失われただけでは、機体の破壊には至りません。何らかの構造的な破壊がなければ、このような事態が起きるとは考えにくいのです。

※ここに記載した情報は、筆者が上記サイトの記事を再構成したものです。誤読などの可能性が無いとはいい切れません。正確な情報が得たければ、原文を参照してください。

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いま分かっている事実はこれだけです。色々な憶測が乱れ飛んでいますが、まだはっきりしたことは何も分かっていません。とりあえず、NASAの正式な発表を待ちましょう。正確な情報はあそこからしか得られません。

「タイルが一枚でも失われたら・・・」と言っていた航空評論家もいました。1枚や2枚はがれたぐらいでは、燃え尽きたりしません。「耐熱タイルは爪で引っかくと傷がつくぐらいやわだ」と書いていた記事もあります。当たり前です、気泡を大量にふくんでいるから断熱効果があるんです。タイルを硬くしたら熱を伝えてしまいますし、なによりとても重くなってしまいます。一つ一つ反論するのは馬鹿馬鹿しいので止めておきますが、大手のメディアにも、ずいぶんいい加減な憶測混じりの記事が目立ちます。

ちなみに、シャトルが大気圏突入時に高温になるのは「空気との摩擦」のためではありません(ほとんどのメディアがこう書いていますが、これは嘘です)。これは「空力加熱」と呼ばれる現象です。空気中の物体の速度があまりに高くなると物体の前面で空気が逃げ場を失って急激に圧縮されます。このとき圧縮された空気が周りの空気と熱を交換することが出来ない状態になります(これを「断熱圧縮」と呼びます)。圧縮された気体中の分子は激しくぶつかりあい、その運動エネルギーを熱に変えます(ボイル・シャルルの法則ですね)。熱の逃げ場がありませんから、結果として温度がどんどん上がっていくことになります。これが、大気圏突入時のシャトルが高温になる理由です。「空気との摩擦」だけではあんな温度になることはありません。まあ、いいんですけどね。

(Feb. 04 2003 updated)

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Feb. 04 2003 Columbia Lost 2003.02.04

情報のアップデートです。さほど新しい情報はありません。
昨日発表されたタイムラインが若干修正・更新されています。

昨日に引き続き、ニュースリリースなどに掲載された
シャトルプログラムマネージャーのディトモアのコメントの抄訳です。
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030203link/
http://www.nasa.gov/HP_news_mcc0203_bb_030203.html

8:52(EST)
左着陸脚のブレーキラインに取り付けられた3つのセンサーが、着陸脚収納部の異常な温度上昇を捕らえる。

8:53(EST)
4番目の左着陸脚ブレーキラインのセンサー、ストラット・アクチュエイターとアップロック・アクチュエイターのセンサーが、これに先立つ5分間で30度から40度への上昇を示す。

8:55(EST)
5番目の左着陸脚ブレーキラインのセンサーが異常な温度上昇を示す。

8:57(EST)
翼の上面と下面の温度センサーが計測不能に。

8:59(EST)
機体の左側の空気抵抗が増加し、機首が左へ向こうとするのを打ち消すために、シャトルのフライトコントロールが翼のエレボンに命令を送る。また、これを補助するために右側の4つのスラスターのうち2つが(姿勢制御に使われる小型の噴射装置)が噴射される。直後に、シャトルとのコンタクトが失われる。

昨日の情報と微妙に違っています(両者とも、NASAの公式発表です)。スラスターの噴射があった事実と、温度の上昇値の修正、各部センサーからの温度上昇のデータが新しい条項でしょうか。昨日言及されていた8:53(EST)のエレボンのセンサーの機能喪失については、今回触れられていません。誤報なのか、省略しただけなのかは不明です。

現在、エンジニアチームが、これに続く32秒間のデータを、データ転送システムの各ハブから直接読み出そうとしているとのことです。これが分かれば、さらに進展があるでしょう。

注意すべきなのは、温度上昇が必ずしも構造的な破壊を意味しないかもしれないということです。着陸脚のセンサーが30度から40度の温度上昇を示していた時、機外の温度は2000度を超えていました。また、5つのセンサーが同時に温度上昇を記録しています。着陸脚の収納部に熱的な破壊が起きていたとすれば、このようなデータにはならないはずです。これはその段階で起きていた「何か別のこと」を示しているのです。

同じように、主翼上面での温度上昇も、構造的な破壊によって「熱が突き抜けた」ことを示すものではありません。

さて、もう一つの焦点である、打上げ時の剥落についてですが。件の物体は、20X16X6インチのサイズで重さが2.67ポンドぐらいだとのこと。昨日も述べられていましたが、この剥落物の衝突だけでは、今回のような事故が起きるとは考えにくいとのこと。

(Feb. 04 2003 updated)

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さて、ここまでがNASAの公式発表のまとめです。

世間では、ずいぶんNASAの安全管理不足を批判する声が高まってきました。当然でしょう。よくあることとはいえ、打上げ時のシャトルからぱらぱらパーツが落ちるのは問題です。元NASAの職員が安全管理のずさんさを大統領に直訴する手紙を送っていた、なんていうニュースも流れているようです。まあ、この手の話はそれこそアポロの頃からずーっと言われていたことですね。そういう面から見れば、NASAが昨日今日と剥落物の衝突だけが原因ではないことを強調してるのは、これらの批判を和らげる意味がないとはいえないでしょう。ま、嘘を言ってるとは思いませんが。

無批判に全てを信じるのもどうかとは思いますが、個人的には得体の知れないリークや憶測をちまちま分析するよりは、公式発表を追うほうがずいぶんましだと思います。中には全く逆の考え方をする方もいらっしゃるようですが・・・。

なんにしても、調査は始まったばかりです、「真実」が明らかになるにはまだずいぶんかかるでしょう。 チャレンジャーでさえ、全ての記録が公開されるまでに10年近くかかったんですから。

(Feb. 05 2003 updated)

Feb. 06 2003 宇宙飛行士という仕事

追悼式典でのブッシュ大統領演説全文(SpaceFlightNow)
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030204bushmemorial/
STS- 107のクルーを一人一人をエピソードと共に紹介しながら、彼らを讃える内容です。相変わらず、こういうのは上手いですねえ。ただ、彼が話しているとなんだか裏の意図があるような気がしてしまうのは困ったものですが・・・。当然アメリカ政府としては、彼らを「国家の英雄」にするのが目的なんでしょうけど。

僕は彼らを英雄視するのは、あまり好きではありません。

彼らが英雄なのは、彼らが死んでしまったからでしょうか?あるいは、全ての宇宙飛行士は死を賭してまでフロンティアに挑戦する英雄なんでしょうか?なんとなくですが、僕はそうじゃないような気がします。彼らがリスクを知っていたことは事実でしょう。それを知らずに、危険に赴くのはただのバカです。でも、それは彼らが英雄であることの証明ではありません。もちろん、英雄はなるものではなく、作られるものです。でも、彼らを英雄視することは、どこかで彼らを冒涜することのような気がするんです。

この数日間やっと落ち着いて、まず開いた本がありました。それはサン・テクジュペリの『人間の土地』です。我々がなぜあそこに行かなければいけないのか、なぜあそこに行きたいと望むのかを考え始めた時に、まず思いついたのがこの本でした。まあ、この本は個人的に「生まれてこのかた一番好きな本」だったりするので、たまたまというわけじゃないんですけどね。

知っている人も多いでしょう、「星の王子さま」のサン・テクジュペリが自らの飛行士としての体験を書いたエッセイです。1930年代、郵便航空の黎明期に空路を開拓しながら、郵便物を空輸していた人々のエピソードがちりばめられた、とても美しい本です。

当時、飛行機はまだとても信頼性が低く、飛行中にエンジンが止まることもしばしばでした。もちろんGPSなどありませんし、レーダーもありません。ナビゲーションはコンパスと地形を頼りに地図を見ながら行っていました。彼らのほとんど全員が不時着を経験しています(サンテクジュペリ自身も何度も不時着を経験しています)。幾人かは無事戻り、幾人かは二度とかえってきませんでした。

彼らを支えていたのは、無謀な冒険心や虚栄に満ちた英雄願望ではありません。彼らが「成功」しても誰も讃える人はいません。ただ、郵便が無事に届くだけです。彼らが「失敗」して死んだとしても、彼らを讃えるのはごく一部の身内だけだったはずです。

冬山に不時着し、吹雪の中を身一つで何日間も彷徨うような思いをしたり、水も無く砂漠の真ん中に不時着して飢えと渇きで死にそうになったり。そんな経験をしても、彼らは体の傷が癒えると、また出かけていきます。かの本にはその理由がちゃんと書いてあります。「彼が帰って来るのは、いつもきまってふたたびまた出発するがためだった」

彼らは、非日常に向かって突き進んでいった冒険者ではなかったんじゃないでしょうか?彼らは、僕たちに先んじて、あそこを日常にしようとしていた人たちです。「宇宙飛行士」は勇者の称号ではなく、まず、ひとつの職業の名前です。もちろん、彼らは勇気ある人々でしょう。でも彼らが賞賛されるべきはその勇気ではないような気がします。

ちょっと長くなりますが、もう少し「人間の土地」から引用をしましょう。

「なんと呼んでいいか、適当な名称の見当たらない美質がある。それは<慎重さ>と呼ぶべきかもしれないが、しかしこの呼び名はまだ十分でない。なぜかというに、この美質は、世にもにこやかな陽気さを伴いうるからだ。それは一人の大工が、対等の気持ちで、自分の木材と向かいあい、それを撫でさすり、寸法を測り、かりそめならず扱って、自分の気力の全てをそれに注ぎ込むあの気持ちなのだ。」

「人間であるということは、とりもなおさず責任を持つことだ。人間であるということは、自分には関係がないと思われるような不幸な出来事に対して忸怩たることだ。人間であるということは、自分の僚友が勝ち得た勝利を誇りとすることだ。人間であるということは、自分の石をそこに据えながら世界の建設に加担していると感じることだ。」

そう、それでも、彼らはあそこへと赴き、夢と希望を語るでしょう、自らの経験と職業として。ぼくは、その彼らのプロフェッショナルとしてのプライドに最大限の敬意を払いたい。未来を自分の手元に引き寄せようとする、彼らの想像力と意志を尊敬したいと思います。

(Feb. 07 2003 updated)

Feb. 06 2003 Columbia Lost 2003.02.06

http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030205foam/

記者会見があったようです。ここまでの情報をアップデートをしておきましょう。今回も目新しい事実はありません。今回の会見の焦点は、打上げ時の剥落物についてです。調査チームは、この剥落物は事故の直接原因ではない可能性が高いという見方を強めています。

会見全文 (NewYorkTimes要登録無料)
http://www.nytimes.com/2003/02/05/national/nationalspecial/06NASA-FULL-TEXT.html

外部燃料タンクの外壁に使用されている物質は、打上げ時の空力加熱からタンクを保護するためのもので、非常に軽くてもろいために、衝突による衝撃ではシャトルの耐熱タイルを破壊することは出来ないだろうとのことです。剥落物が氷である可能性も指摘されていましたが、当日シャトルへの着氷の事実はなく、またこの高度まで上昇すると、過熱で解けてしまうとのことです。

また、今回打上げ時のシャトルを裏側から撮影した映像が公開されました(リンク先参照)。これを見るかぎりは、剥落物が衝突したことによる外見上のダメージは認められません。

現在、調査は大きく分けて3つ方向で進められています。

・テレメトリーデータの解析
 シャトルから送られてきたデータの解析です。これには、通信途絶後も32秒間に渡って続いていたといわれる、送信データを各通信ノードからの復帰する作業も含まれていますが、今のところノイズのレートが高すぎて有意な情報は得られていないとのこと。

・シュミレーション/実験
 最終段階で起きていた、シャトルの左側の空気抵抗の増加がどれくらいのものだったのかを、姿勢制御用ロケットの噴射のデータから逆に推測するシュミレーションを行っているそうです。また、打上げ時の剥落物がシャトルの左翼に与えた影響についても、追試実験を行っているとのこと。

・シャトルの破片の回収および分析
 現在、回収された破片をケネディ宇宙センターに移送して分析することを検討しているとのこと。また、当初予想されていたより広範囲にわたって破片が飛散しており、調査のエリアを拡大しているとのことです。

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個人的に注目したいのは、残り32秒間のテレメトリデータというやつです。これが復帰できればかなりの事実がわかるんじゃないでしょうか。どうやら、通信衛星を経由して送られてきていたはずのデータを、経由したサーバ等からパケット単位で回収を試みているようです。す、すごい。

シャトルの運行開始当時、この最も熱をもつ着陸20分前から12分前の約8分間は『ブラックアウト』と呼ばれ、熱によってプラズマ化した大気の影響で地上との交信が一切出来ませんでしたが、現在はシャトルの背中に搭載されたアンテナを使用し、衛星を経由させることで通信を可能にしています。

シャトルの破片の回収はかなり進んでいるようです。今回調査範囲がカルフォルニア州のほうまで広げられたことは、これまで考えられていたよりずいぶん早い段階から破壊が始まっていた可能性があることを示しています。

破片の回収が進み、機体のどの位置のものなのかが特定できれば、落下していた位置によって、どの部位から破壊が始まったのかを特定する手がかりになるでしょう。もしかしたら、破壊の原因を特定できる、何らかの証拠が破片に残っているかもしれません。


黙殺しようかと思ってたんですが、まだ一部で騒いでいる人がいるようなので、コメントを。
昨日、一昨日ぐらいにかけて、「シャトル翼面の傷」と称される映像があちこちで公開されていました。あれは、かなり意図的に流されたデマです。件の映像はシャトルの腹部ではなく、カーゴベイ内部のカバーのクローズアップのようです。知っていれば見た瞬間に違うと分かるんですけどね。変な突起物が見えているし、色も黒くないし、形もスケールもシャトルの翼と一致しないし・・・。

付け加えておくと、STS-107のミッションは科学実験でした。国際宇宙ステーションとのドッキングはありませんし、そもそも、軌道の高さがぜんぜん違います。また船外活動を行うことも考えられますが、これには作業用のアームや遠隔操作システムが必要です。今回その予定がなかったため、これらの機材は搭載されていません。軌道上でシャトルの腹部を撮影する方法はなかったんです。

ちなみに、現在シャトルの耐熱タイルを軌道上で交換する方法はありません。たとえ予備を積んでいっても、軌道上、真空中ではくっつきません。シャトルのタイルはかなり厳密な温度管理の元で職人が一枚一枚手で貼っているんです(その管理体制に問題があったことが、指摘されています)。

では、かりに大気圏突入が不可能なほどの傷をシャトルが負っていたとして、それを軌道上で知ることが出来たら、彼らに何が出来たか?ほとんどできることはなかったはずです。NASA には、数週間で打ち上げられるような予備のシャトルやロケットはありませんし、ロシアのソユーズやプログレスも同じです。前にも書いたように、いま宇宙に人を運べる乗り物はスペースシャトルとソユーズだけです。ちなみにソユーズには7人も乗れません(大きいほうで3人、小さいほうで2人です)。

今回の場合、国際宇宙ステーションの軌道はずっと上です。そこへたどり着く方法も、迎えに行く方法もありません。もし仮に、上手く転用できるプログレスがあったとして、補給物資を打ち上げても、シャトルとドッキングする方法がありません(ドッキングベイは必要に応じて積んでいくんです)。さっき書いたように、今回は船外活動を行うために必要な機材も積み込まれていませんから、取りに行くのも難しいかもしれません(外に出ることはできるはずですから、不可能ではありませんが・・・)。

一歩外は真空、無重力、太陽の直射熱、放射線・・・、生身では1分と持たないはずです。水も食料も空気も地上から持って上がる以外の方法は今のところありません。宇宙飛行はずいぶん日常化したような錯覚に捕らわれますが、所詮は薄皮一枚の日常なんです。ちなみに、シャトルのクルーは打上げ前に遺書を書くのがきまりになっています(公開はされていませんが、家族のもとにはもう届いているでしょう)。あそこはまだ、そういう場所なんです。

(Feb. 06 2003 updated)

追加情報です。
http://www.cnn.co.jp/science/K2003020500877.html

先日ロシアから打ち上げられた、無人補給船のプログレスが国際スペースステーションに無事到着したようです。これで、とりあえず、6月までは大丈夫です(これは、事故の前から予定されていたものです)。ただ、まだCrewを降ろす目処は立っていません。本当は、次のミッションで交代要員が上がるはずだったんですが・・・。

ただ、あまり指摘している人がいませんが、国際宇宙ステーションの高度だと衛星はかすかな空気抵抗を受けます。放っておくと一年以内に落ちてくるはずです。まだ建設途中のスペースステーションは自力で高度を維持することが出来ません。確かこれまではドッキングしたスペースシャトルのスラスターを使っていたはずなんですが・・・。

まあ、ミールはソユーズやプログレスを使ってやっていたはずなので、ロシア機でもできるはずですけどね。

(Feb. 06 2003 updated)

※その後、シャトルの運用マニュアルを見直したところ、今回のミッションでもエアロックは使用できたかもしれません。SpaceLabと排他使用だと思っていたんですが、どうやら併用できるようです。大変失礼しました。

(Feb. 07 2003 updated)

Feb. 07 2003 Columbia Lost 2003.02.07

【未確認情報】※NASAの公式発表ではありません
Air Force imagery confirms Columbia wing damaged (SpaceFlightNow)
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030207avweek/
米空軍の地上からの追跡カメラが撮影していた高解像度の映像に、シャトルの左翼が損傷を受けている様子が映っていたとの情報が流れています。現在、ジョンソン宇宙センターで分析中とのこと。

映像には、左翼と胴体が交差するあたりが損傷を受けて、ギザギザになっている様子が映っており、また、シャトルが姿勢を回復するために機首右側のスラスターを吹かしている様子も映っているとのことです。

リンク先の記事も、憶測が混じっていて何が事実情報なのかよく分かりません。 もし、この情報が正しければ、損傷があったのは着陸脚収納部ではなく、翼前縁かもしれません。ここは、再突入時に最も加熱する部分の一つですし、もし損傷があれば空力的に多大な影響が出るはずです。

上記の記事によると、ちょうどこの翼の前縁は、より高い温度に耐えられる黒いカーボン製の耐熱タイル(腹部に張られているもの)と、若干耐熱温度が低い白いタイルの境目に当たり、U字型のタイル(羽前縁をくるむように配置)が張られている場所とのこと。このタイルの機体への接続は、この2種類のタイルの膨張率の違いを吸収するために、若干の柔軟性を持たせるような工法が使われているようです。

繰り返しますが、これは情報ソースが明らかにされていない未確認情報です。ガセネタの可能性もありますので、くれぐれもご注意ください。

(Feb. 07 2003 updated)

FrolidaTodayにも記事が上がりました。
http://www.floridatoday.com/columbia/020703satimages.htm
今回の情報源は、Aviation Week & Space Technologyのようです(同社のサイトでは該当情報は見つけられませんでした)。また、撮影したのはニューメキシコのカートランド空軍基地(Kirtland Air Force Base)とのこと。

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さて、ちょっと心配な国際宇宙ステーションの今後についてです。
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030206station/

NASAは国際宇宙ステーション(ISS)に4月の後半から5月の前半にかけて、2人か3人の「維持要員」を送るべく手配を進めているとのことです。これは、もともと4月26日に予定されていたソユーズの「タクシーミッション」を利用するもの。

ISS には、脱出用のソユーズカプセルが常時接続されています。このカプセルは6ヶ月に一回交換されることになっており、これをタクシーミッションと呼んでいます。本来ならば、宇宙飛行士が一人搭乗し、ISSに新しいカプセルを届けた後、古いカプセルで地球に帰還しますが。今回は、このカプセルに交代要員を乗せて打上げ、現在軌道上にいるクルーを帰りの便で降ろそうということのようです。

昨日も触れましたが、ISSは補給のかなりの部分をスペースシャトルに頼っていました。上の記事中でも指摘されていますが、飲み水問題などはかなり深刻です。このため、維持要員は2人になる可能性が高いとのこと。当然ながら、シャトルの運用が再開されるまでは維持管理に専念するほかありませんし、それもかなり綱渡りの状態が続きそうです。

本来ならば、2003年は今回のコロンビアを含め5回のスペースシャトルミッション、2回のソユーズミッション、3回のプログレスミッションが予定されていました。つまり、ISSへの直接コンタクトの機会が半分に減ってしまったことになります。

(Feb. 07 2003 updated)

HotWiredに今後のISSの運用について詳しい記事が掲載されました。
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20030207304.html ロシア側とNASAはスペースシャトルなしでISSを運用する方法も検討しているとのこと。

たしかに、人道的理由を横に置いておいても、アメリカの金銭的援助のもとに、ソユーズとプログレスの運用体制を強化することが出来れば、崩壊以後、下降の一途をたどっていたロシアの宇宙開発を再浮上させるチャンスです。ロシアからすれば、放っておく手はありませんねえ。

(Feb. 07 2003 updated)

コロンビア関連について、以前紹介したmontreal lifeのkay-jさんも掲示板のほうでフォローされていました。メインサイトが更新されていないなあ、と思っていたんですが・・・。ほとんどソースが同じなので、ネタが被るのもしょうがありませんねえ。だって、アクティビティの高いソースは実は本国にもあんまり無いんですもの。

(Feb. 08 2003 updated)

Feb. 08 2003 飛行経路図 2003.02.08

自分でもよく分からなくなってきたので、シャトルの飛行経路を地図の上に重ねてみました。
今の段階では、かなりの部分が推測に頼らざるを得ませんが、だいたいの目安にはなると思います。

us_map.jpg

※この地図は、既にアップデートされています。以下の記事を参照してください。
http://www.lizard-tail.com/isana/review/view.php?search_id=20030115060556

今回、仮に8:59の地点をアルバカーキに置きました。これは、カートランド空軍基地から撮影された映像にスラスターの噴射が写っているという情報を元にしています。シャトルからの通信が途切れる寸前に最初のスラスターの噴射が行われたという記録がありますから、少なくとも時刻のプロットがこれ以上右にずれることはありません。

思っていたより、ずいぶん前から異常が起きていますねえ。

8:52(EST) 左着陸脚のブレーキラインに取り付けられた3つのセンサーが、着陸脚収納部の異常な温度上昇を捕らえる。

8:53(EST) 4番目の左着陸脚ブレーキラインのセンサー、ストラット・アクチュエイターとアップロック・アクチュエイターのセンサーが、これに先立つ5分間で30度から40度への上昇を示す。

8:55(EST) 5番目の左着陸脚ブレーキラインのセンサーが異常な温度上昇を示す。

8:57(EST) 翼の上面と下面の温度センサーが計測不能に。

8:58(EST) 機体の左側の空気抵抗が増加して、機首が左へ向き、機体が左にロールしようとするのを打ち消すために、シャトルのフライトコントロールが翼のエレボンに命令を送る。

8:59(EST) 再び、エレボンに命令が送られる。また、これを補助するために右側の4つのスラスターのうち2つが(姿勢制御に使われる小型の噴射装置)が噴射される。直後に、シャトルとの通信が途絶。

9:04(EST) 事故当日に流れた映像が撮影されたとされている場所。最初の「分解」が確認されている地点。

(Feb. 08 2003 updated)

画像ファイルを入れ替えました。

(Feb. 15 2003 updated)

Feb. 08 2003 Columbia Lost 2003.02.08

http://www.nasa.gov/images/content/columbia/107_bw_2_07.jpg
NASA

件の「高解像度写真」がNASAから公開されました(NASA公開画像なのでcopyrightはクリアされてるはずです)。思ったより、解像度が低いですねえ。ただ、確かに右翼に対して左翼のラインがギザギザになっている様子はわかります。欠けているより、むしろ盛り上がっているように見えるのは、撮影角度のせいでしょうか。

http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030207briefing/
記者会見も開かれたようです。本画像については専門家の手によってさらに分析を進めているという以上の情報はありません。確かにこの写真では原因を特定できるほどではありませんね。ただ、ハッキリしているのは、何かが起こったのは主着陸脚収納部そのものではなさそうだ、ということです。ただ、その近くで何かが起きただろうということは、同時に公開された、センサーの配置図でもわかります。

異常を示した、センサーの配置図(FloridaToday)
http://www.floridatoday.com/!NEWSROOM/newsgraphics/020803badwing.jpg
写真でギザギザになっている部分と、主着陸脚の収納部はとても近い場所にあります。ここがなんらかの原因で破壊され、主翼内部に熱が回ったんでしょうか?んー、まだ憶測の域を出ませんねえ。

また、フォートワース付近で主翼の一部と見られる大きな破片が見つかっています。
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030207wingfound/
まだ、どちらの主翼なのかはハッキリしていないようです。下の地図だとダラスのすぐ右です。最初に「分裂」が確認された位置にかなり近いですねえ。これまで見つかっている破片の多くがフォートワース付近より東側で見つかっていますから。もしこれが左翼なら、分裂の最初期に落下したことも考えられます。

まあ、落下物の分析もずいぶん進んでいるようなので、もう少し待ちましょう。「結論を急いではいけない」とディトモア氏も言ってますしね。この間、NASA の見解が二転三転していることを批判する向きもあるようですが、チャレンジャー事故のときは「はっきりしたことは何もいえない」の一点張りで、情報公開がほとんどなされず、憶測の嵐が吹き荒れたという経緯があります。その批判もあって、NASAは今回は非常に密に情報公開を行っています。調査の途中経過を逐一報告しているわけですから、分析結果いかんによって仮説が変わるのは当然のことでしょう。

当然ながら、このページに書かれている情報も、正しいとは限りません。憶測が混じっていますし、事実の誤認や間違った知識、英文読解力の欠如などで汚染されている可能性が大です。くれぐれも信じないように。正しい情報が得たいならば、少なくともリンクしている元記事を参照してください。そちらのほうがより「真実」に近いはずです。

(Feb. 08 2003 updated)

Feb. 10 2003 Columbia Lost 2003.02.10

シャトル機体から物体離脱 宇宙ゴミか隕石の可能性も
http://www.asahi.com/international/update/0210/006.html
スペースデブリの可能性も出てきたようです。シャトルの打上げ翌日に、軌道上でシャトルから秒速5kmで遠ざかる物体がレーダーに映っていたとのこと。ただ、これは廃棄された水かもしれないとのことなので(その割には動きが変らしい)、まだはっきりとしたことは分からない状態のようですね。

これを機にスペースデブリついて、もう一度ちょっぴり解説。

スペースデブリというのは軌道上のゴミのことです。軌道上には天然の隕石などだけでなく、打上げ時に切り離されたロケットや、稼動を終えた衛星なども多数浮遊している。これをスペースデブリと呼び、近年ずいぶん問題になっています。

軌道上の物体というのは秒速7.5kmほどの速度で飛行しています。かりに正面衝突したとすると相対速度は秒速15km、時速5万4000kmにもなる計算です。ある計算では、80gの破片は1kgのTNT火薬とほぼ同じ破壊力をもつという試算もあるようです。現実的な保護方法は今のところ「避ける」以外にはないのが現状ですね。

現在、軌道上の人工物体は2000t以上、そのうち95%はすでにミッションを終了し、コントロールされていません。人工衛星も放っておくと僅かな空気抵抗で高度が下がったり、「摂動」という現象で軌道がふらついたりするため軌道修正が必要です。多くの場合、この軌道修正のための推進剤が切れるまでが人工衛星の寿命になります。

このような人工物体はカタログ化され、衝突の危険がある場合には打ち上げを延期したり、コントロール可能な方の衛星の軌道を変更したりという対策が取られていますが、当然ながら、すべての破片がカタログ化されているわけではありません。事故の確率は100万分の1といわれていますが、もうすでに旧ソ連の通信衛星が被害にあったと見られています。カタログ化されない微細なデブリの衝突は日常茶飯事で、実際、これまでもスペースシャトルの機体にも細かい衝突跡が多数発見されていました。

最近、各国でもなるべくゴミを出さないようにロケットを工夫するといった動きが出はじめており、国際的な基準をつくろうという動きもあるようです。回収についても研究は進んでいますが、一つ一つデブリとの軌道速度を合わせてランデブーして回収するとなると、莫大な費用と手間がかかるため、いまだに目処は立っていません。

このデブリ問題は、今後宇宙開発が進めば進むほど深刻化してくるはずです。 もし、今回の事故がデブリによるものだとすれば、事実上避けようのなかった事故ということになるでしょう。デブリを弾き返すほどシャトルを頑丈にするというのは非現実的です(おそらく、重量増で現行のエンジンでは飛ばなくなるはずです)。

まあ、今回の事故で明らかになったシャトルプロジェクトの最大の問題点は、バックアップの有人飛行システムが用意されていなかったことにあるような気がしますが、これについては、長くなるのでまた今度。

スペースデブリについては、以下の本がお勧めです。
八坂 哲雄『宇宙のゴミ問題―スペース・デブリ』裳華房 ポピュラーサイエンスシリーズ(amazon)
幸村誠『プラネテス』モーニングKC(amazon)※コミックです


(Feb. 10 2003 updated)

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を、NASAのサイトにMissionStatusが上がってますね。リンク切れしてるけど(リンク先がfile://〜になってるよ)。おそらく、下記のページです。
http://www.nasa.gov/columbia/COL_statusrepts.html

ここから、これまで書かなかった細かい情報についてフォローしましょう。

調査委員会について。
これまでNASAの開発チームが主導で行われていた調査ですが、Columbia Accident Investigation Board (CAIB)に主導権が移っています。今後、記者発表もこちらのメンバーが手動で行われることになるようです。ディトモアさんご苦労様(いや、彼の仕事はまだ終わったわけじゃないですけど)。

国際宇宙ステーション(ISS)について
6日にちょっとだけ触れた、ステーションの高度維持についてですが、現在補給のためにステーションに接続されているプログレスを使って今週行われるようです。とりあえず、よかったですねえ。あとは、交代要員問題ですが・・・。

(Feb. 10 2003 updated)

Feb. 12 2003 Columbia Lost 2003.02.12

なんだかコロンビア事故専門サイトになりつつありますねえ、本当は違うんですが・・・。
とりあえず、情報のアップデートをしましょう(時間がないのでちょっとだけです)。

NASAのサイトにCAIB(Columbia Accident Investigation Board)からの最初のレポートが上がっています。
http://www.nasa.gov/HP_news_mrsr0211.html
事故原因については新たな情報は今のところありません。シャトルの破片がケネディ宇宙センターに届いたようです。これらの破片についても、本格的な調査がはじまるでしょう。

また、NASAではシャトルの左翼のモックアップを作って、事故原因を探るべく検討を開始したようです。
http://www.floridatoday.com/columbia/021103investigate.htm

SpaceFlightNowに事故に至るまでのコロンビアの再突入時の詳細なタイムテーブルが出てますね。
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/timeline/

(Feb. 12 2003 updated)

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NASAからPDFで提供されていたシャトルのセンサー機能喪失を時間順に追った資料を一覧にしてみました。
いずれアップデート、コメント付加を行います。
http://www.lizard-tail.com/isana/review/shuttle/sensors.html
※600x450のJPEGが25枚も貼ってあるため、かなり重いです。注意してください。

元資料(PDFファイル)
http://www.nasa.gov/columbia/COL_sensor_wire_030207.pdf

(Feb. 12 2003 updated)

アマチュアの天文ファン(人工衛星追跡が趣味のようです)がとらえたシャトルの画像
http://www.eclipsetours.com/sat/ コメントによると、ネヴァダ州で撮られたものとのこと。もしかすると、最初期の崩壊の様子かもしれません。

(Feb. 12 2003 updated)

Feb. 14 2003 Columbia Lost 2003.02.14

'Hi-tech' shuttle pic really low-tech(CNN)
http://www.cnn.com/2003/TECH/space/02/12/shuttle.photo.ap/index.html
件の「高解像度」写真は、施設のスタッフが休み時間に一番小さな9センチの望遠鏡を11年前のマッキントッシュでコントロールして撮影したものだったというお話。あー、やけに解像度が低かったのはそういうことだったんですねえ。

逆にいえば、あれだけ高速移動している物体を、9センチの望遠鏡とMacで撮影する技術はなかなかのものだぞ。さすが、向こうのオタクはやることが違う。

情報としての有用性を疑う向きもあるみたいだけど、まあいいじゃないですか。ないよりはよっぽどいいよ。

また、事故の二日前にNASAのエンジニアが、主着陸脚収納部が打上げ時の剥落物の衝突によりダメージを受けていた場合の危険性についてメールのやり取りをしていたという公式発表がありました。 Email Discussion of Possible Landing Gear Failure Modes(NASA)
http://www.nasa.gov/columbia/COL_landgear_email_030212.html
(同ページよりPDF化された件のメールも落とすことができます)

メールでは突入時の熱で収納部内の温度が上がりすぎると、シャトルのタイヤが破裂して、収納部のドアが吹き飛んでしまうかもしれないという指摘がされています。大型トラック用のタイヤの破裂で、毎年何人も亡くなっているぐらいですから、確かにシャトルの高圧タイヤが破裂したら、かなり周辺部に大きなダメージがあるはずです。今回の事故も、このような現象がおきていなかったとは言い切れません。

通信が途絶える直前に、シャトルの右側の主着陸脚に取り付けられた、タイヤの空気圧を計測するセンサーからの信号が次々と途絶えるという現象が起きています。ただ、初期の記者会見でディトモア氏が指摘しているように、この機能喪失は若干のタイムラグを置いて起こっており、一瞬にして破壊されたとは考えにくい状態です。しかも、このとき既にシャトルの左側の空気抵抗の増加を示唆する、エレボンの動作やスラスターの噴射が記録されていることから、なにか他にも損傷箇所があったと考えるのが妥当かもしれませんね。

(Feb. 14 2003 updated)

Feb. 15 2003 Columbia Lost 2003.02.15

STS-107 Ground Track Charts(PDF)
http://www.nasa.gov/columbia/107_ground_tracks.pdf
NASAから公式に地図上にイベントを並べたチャートが発表されました。
これを待っていたんです。ようやく、正確な地図が書けますねえ。

STS-107 Tracking Map 日本語版(PDF)
http://www.lizard-tail.com/isana/review/shuttle/shuttle_track.pdf
※これは筆者が現時点で発表されている情報を元に再構成したものです。
※かなり推測が入っていますのでご注意ください。再配布の際は自己責任でお願いします。

これを機にちまちまと作りかけていたやつを完成させました。一枚の地図上に各イベントを載せてテキストを翻訳した、オリジナル日本語版です。まだ、少し曖昧な部分が幾つかありますが、そのうちアップデートします。500k以上あるので、ダウンロードの際は注意してください。

若干イベントを間引いてありますが、代わりにセンサー図をつけてみました。地図上の位置とイベントの発生時刻は、目測で拾っているため、若干ずれがあるかもしれません。砂粒のような字で書いてあるので、600%ぐらいまで拡大してスクロールしながら見るのが吉です。

んー、これで、ちょっとは整理されたかな。分かったような、分からないような・・・。

(Feb. 15 2003 updated)

ちなみに、上のPDFファイルは中身が全部ベクトルデータなので、Illustratorか何かがあれば再編集できるはずです。再配布、再加工など、ご自由にどうぞ。特に連絡していただく必要もないです。好きに使ってください。ちなみに、元地図も著作権のないフリーのPDFデータから抽出したものです。

(Feb. 15 2003 updated)

Feb. 17 2003 Columbia Lost 2003.02.15

「超高温気体の流入が原因」と断定 シャトル空中分解(CNN.JP)
http://www.cnn.co.jp/science/K2003021400485.html
事故調査委員会は、どうやらシャトルに生じた何らかの「傷」から大気圏突入時の高温のプラズマか流入したことが原因と断定したようです。センサーのデータは耐熱タイルの欠損によって、「間接的に」温度が上昇したとは考えにくく、何らかの穴か亀裂から直接プラズマが流入したと考えられるとのこと。

NASA公式NewsRelease
http://www.nasa.gov/HP_news_03072.html

うむ、でもね、それは素人でも何となく分かるんだよ。問題は、それが「いつ、どこで、なぜ起きたか」の方ですがな。だって、何らかの破壊が起きたのなら、その最初期段階で、プラズマが流入するのは当たり前だもの。これ以外の原因っていうと・・・例えば、制御系のトラブルで、いきなりバラバラになったとかかな。でもセンサーが異常値を示している時点でこの線はほとんどないよなあ。

これを「原因」と表現するのはどうなんだろう。「自動車事故で車が壊れた原因は自動車が何かにぶつかったことです」といっているようなものだぞ。まあ、言い回しの問題だからどーでもいいんだけどね。

っていうか、NASAの公式発表には「暫定的な分析結果」(Preliminary analysis)って書いてあるよ・・・。

NASAからの公式発表には、上に加えて以下のような情報が掲載されていました。
・車輪の位置と空気抵抗のデータを考えると、車輪が早く出てしまったということは、考えにくい。
・破片の調査は継続中。今のところフォートワースから西には破片は見つかっていない。

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ただ、まだ分かっていないことが多すぎて、シナリオを断定するのはまだ難しそうです。
ちょっとまとめましょうか。

シャトル翼のどこからか、高温のプラズマが侵入したことが「原因」らしい。
いつ、どこで何が起きたのかは、ほとんどわかっていないのが現状です。

最初の破壊箇所について有力なのは二つ。
「主翼の前縁」説と「主着陸脚収納部ドア」説。

後者は、温度上昇の緩やかさや、他のセンサーの異常などから見ても可能性は低そうです。ただ、主翼前縁部の破壊の証拠とされているのは、空軍の施設から「オタクなスタッフが趣味で撮影した」件の画像「のみ」ですから、まだ断定するのは早いかもしれません。

破壊原因にはまだ諸説あります。有力なのは二つ。
「やっぱり、打上げ時の剥落物衝突が原因だよ」説。「そんなもんじゃシャトルは壊れませんよ、スペースデブリか微小隕石でしょう」説。どちらも甲乙つけがたいですねえ。当然ながら、NASAは前者の意見には否定気味です。

また、プラズマ流入による「主翼の構造」そのものへのダメージや制御系への影響から破壊された可能性もないわけじゃありません。主着陸脚部分が問題にされているのは「センサーの異常」がそこに集中しているからです。でも、NASAが述べているように、これは必ずしもこの場所が「原因」だったことを示すものではないかもしれません。センサーの異常は主翼の別な箇所にも起きています。

少なくとも通信途絶から30秒間は何らかの形でシャトルが飛んでいたことは事実のようです。最後の通信の32秒後にシャトルから、「ノイズ」が送信されています。これはこの時点でシャトルのクルーが何らかの通信をしようとしていた可能性があるということです。エンジニア達は、この32秒間のデータを解析しようとしていますが、あまりうまくいっていないようです。

今回、事故調査委員会の最初の報告書の提出は60日後です(ちなみに、チャレンジャーの時は120日)。現在、回収された破片の分析が進められています。これらの結果はまだ発表がありません。

事故から2週間しか経っていません。とりあえず、ここでは結論を急ぐのは止めておきましょう。

(Feb. 17 2003 updated)

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上に述べた、「32秒間のデータ」ですが、解析を進める中で、3番目と4番目のスラスター(姿勢制御用の小型ロケット)の噴射も行われていたことが分かったそうです。通信を途絶する寸前に、1番と2番のヨー軸(機首を左右に振る動き)をコントロールするスラスターが噴射されていたことが分かっていましたが、その後、さらに2つのスラスターが噴射されていたということですね。

(Feb. 17 2003 updated)

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Shuttle-Track 日本語版(PDF/633k)
※NASAから発表された情報を元に、勝手に作った地図です。公式のものではありませんのでご注意ください。

微妙にバージョンアップしました。画像を取り込んだのでサイズがさらに膨らみましたよ。あはは。
トリミングの変更(A4→A3に)、位置の微調整の他、「件の写真」の撮影位置(写真も)、「最後の通信」を付加。

(Feb. 17 2003 updated)

Feb. 20 2003 Columbia Lost 2003.02.20

なんだかやたらと忙しいので、今日は要点だけ。
Columbia was shedding debris over West Coast
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030218caib/
SpaceFlightNowの記事に、15日の「主翼へのプラズマの流入」について、細かい説明がありました。これは、私も勘違いしていましたが、プラズマのジェットが激しく翼内に流入して「破壊」したのではないとのことです。

まず、大気圏突入時のシャトルの周りには「ショックフロント」と呼ばれる境界層形成されるため、ピンホールが開いたぐらいでは、プラズマが流入することはないそうです。プラズマが流入するためには、ある程度のサイズの傷が必要とのこと。

一旦、プラズマが翼の内側に侵入すると、高い圧力と壁の触媒効果のために、非常に高い割合で、イオンと電子が再結合します(プラズマというのは高温によって、原子核の周りをまわっていた電子が原子から離れ、正イオンと電子に分かれている状態です)。これによって、翼の内部の空気が圧力が低いにもかかわらず、非常に高温の状態になる。これが先日言及されていた「プラズマが流入した状態」だそうです。これは、各センサーやその配線だけでなく、翼の構造そのものに影響を与えることのできる温度とのこと。

それから、タイトルから言うと、これが記事のメインなんですが、各テレメトリーの分析や、 NASAに寄せられた映像の分析、各種の証言などから、通信途絶のずっと以前、カルフォルニアの上空で最初の崩壊が始まった可能性が高いとのこと。これはセンサーの異常が太平洋上から始まっていることを考えれば、さほど驚くべきことではないですね。

(Feb. 20 2003 updated)

Feb. 22 2003 Columbia Lost 2003.02.22

New data shows Columbia's state in final moments
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030221telemetry/
件の「残り32秒」の記録がずいぶん解析が進んだようです。
この間に、姿勢制御スラスターがさらに噴射されていたことは、前回の報告で分かっていましたが、最後の(本当に最後の)記録で、シャトルの油圧システムが稼動していたことが分かったそうです。ただ、油圧はゼロを示しており、機構が本当に動いていたかどうかは怪しい状態です。ただ、フライトコンピューターとナビゲーションシステム、発電機が動いていたことは間違いありません。また、油圧システムはエンジン部と胴体のカーゴベイの床下に配置されていますから、この時点で少なくとも胴体が残っていたのは確かでしょう。

また、シャトルのフライトコンピューターは「機体のロール(左右の傾き)」を警告するメッセージを発信しています。ただ、これがシャトルのコックピットに届いていたかどうかはまだ分かっていません。

シャトルの窓からクルーに見えていたのは、おそらくプラズマ化したオレンジ色の大気だけです。振動も激しかったでしょうし、減速のGもかなりのものでしょう。しかも大気圏突入時のシャトルは自動操縦になっていますから、クルーがシャトルの姿勢を知る方法はコックピット内の計器類だけです。ここに異常が表示されていなければ、彼らは自分たちの身に起きつつあることを知る方法は無かったはずです。センサーの異常は知っていたかもしれませんが、これはこれまでのフライトでも何度か起きていたことです。彼らはそれが機体の破壊を意味するものだとは思っていなかったかもしれません。

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1980 NASA contract issued for tile repair kit
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030221tpsrepair/
軌道上でシャトルのクルーが耐熱タイルを修復するためのキットが存在したかもしれない、というお話。1980年1月22日にNASAとマーチンマリエッタがそういうキットを作る契約書にサインをしたというニュースリリースがあるそうな。ただ、実際にシャトルに搭載されたという記録はないとのこと。

このキットは、耐熱タイルの代わりをする160個のシリコンゴムのかたまりと、隙間を埋めるペーストからなり、お風呂の修理に使うコーキングガンのような道具で、シリコンを破損箇所に貼り付けるようです。この非常用の「タイル」は本来のシャトルのタイルとは違う物質です。このシリコンゴムは大気圏突入時の熱で溶けることで、気化熱を利用して温度上昇を防ぐしくみ。使い捨てのカプセルではよくやる手ですね。

ただ、シャトルの外に出て、このキットを使うためには宇宙服以外にMMU(Manned Maneuvering Unit:船外活動ユニット)が必要とのこと。これはでっかいバックパック型の装置で、初めて命綱なしの船外活動が行われた時に使用されたものです。ただ、これは1986年以来使われておらず、いまはSAFER(Simplifed Aid for EVA Rescue)と呼ばれる簡易の装置が使われています。ただし、これは命綱が外れてしまった時の非常用ですね。

たとえ、このようなキットが搭載されていたとしても、シャトルの腹部には作業をする宇宙飛行士の体を固定しておくフックなどが一切無いため、現状の装備では修復することはきわめて難しいはず。我々が地上で作業するときのことを考えてみればこの作業の難しさが分かります。物をぐっと押したり、レンチでボルトを回したりできるのは、重力で体が地面に固定されているからです(意識することはほとんどありませんが)。でも軌道上では、重力がありませんから、ぐっと物を押し付けると、作用反作用の法則にきっちりしたがって、宇宙飛行士の体は反対方向に飛んでいきます。レンチで力任せにボルトを回せば、回るのは宇宙飛行士のほうです。

だから、宇宙ステーションの組み立ての際には、シャトルに搭載されたロボットアームに飛行士を固定したり、作業が必要な箇所にすべてフックと手すりが用意されているんです。え、なぜボルトを回してもシャトルごと回らないんだって?作用反作用の法則を思い出してください。反作用を受ける割合は「質量」に依存します。無重力はその名の通り、重力がなくなるだけで、質量が消えるわけじゃありません。重いものを動かすのが大変なのは宇宙でも同じです。

さて、想像してみましょう。宇宙服を着て、大きな修理キットを抱えて、SAFERを使ってどうにかシャトルの腹部へ回り込んだとしても、手をかけられる場所はひとつもありません。SAFERはあくまで非常用のものでMMUほどの機動性もなければ、推進剤の容量もかなり少なめです。破損箇所までたどり着くだけでもかなり困難な作業になるでしょう。なにしろ掴まるところが一切ありませんから、機体に物を押し付けただけで、体が機体から離れてしまいます。その度ごとに貴重な推進剤を使って体の位置調整をしなければなりません。やっぱり、ちょっと非現実的ですねえ。

(Feb. 22 2003 updated)

Feb. 26 2003 Columbia Lost 2003.02.26

この間さほど新しい情報はありません、初期段階での情報が出尽くした感がありますね。

Cockpit video found; tape ends before problems(SpaceFlightNow)
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030225caib/
CBSニュースが伝えたところによると、クルーが大気圏突入直前に撮影したビデオテープが発見されたようです。ただ、テープはテレメトリーに最初の異常が記録される15分前に終わっており、その時点で船内に異常は全く見られないとのことです。

1/28日にハワイのマウイ島上空を通過した際にアメリカ空軍によって地上から撮影された軌道上のシャトルの画像(通常画像および赤外線画像)が公開されました。
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030225amos/visible.html
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030225amos/ir.html
画像中、シャトルは上部を地球側に向けて(つまり地上から見ると逆さになって)飛行しているため腹部を見ることは出来ません。また、カーゴベイのドアを開いているために、カートランド空軍基地から撮影された、事故直前の写真で異常が見られている箇所も確認できません。惜しいっ!少なくとも、写っている範囲に異常は見られないようです。

さて、次はCAIB(シャトルの事故調査委員会)が公開した、テキサス州パウエルで回収されたシャトルの耐熱タイルの画像。主翼前縁で胴体と接合するあたりのものとのこと。上がシャトルにくっついていた側、下が外部にさらされていた側です。
http://www.nasa.gov/images/content/columbia/COL_ciab_tile1_030225.jpg
http://www.nasa.gov/images/content/columbia/COL_ciab_tile21_030225.jpg
外部に晒されていた側の表面は明らかに熱の影響でボロボロになっています。通常の飛行では、このような状態になることはありえません。ただ、調査委員会のコメントでは、これがシャトルに装着されていたときにこうなったのか、剥離した後でこうなったのかは現在調査中とのこと。

また、今のところもっとも西で発見されたシャトルの破片はテキサス州リトル・フィールドで見つかった耐熱タイルの破片とのこと(上にリンクしたものとは別です)。えーと、場所がよく分からないので。ShuttleTrak?日本語版に位置を追加しておきました。ニューメキシコとの州境近辺ですね。どのあたりで落ちたものなんでしょうか?

Shuttle-Track 日本語版(PDF/633k) 2003.02.26更新
最も西で見つかった破片の位置を記載しました。
※この地図は公式のものではありませんのでご注意ください。

Mar. 10 2003 Columbia Lost 2003.03.10

ちょっと間があきましたが、この間の情報をアップデートしましょう。

先日、シャトルの主着陸脚のドア及びタイヤの写真が公開されました。左が左翼のタイヤ、真ん中が右翼のタイヤ、右が右主着陸脚のドアです。左翼のものは明らかにバーストしてますね。左翼の方は、以前から熱の流入が示唆されていた方です。またひとつ、それを裏付ける証拠(かもしれないもの)が見つかったことになりますね。

また、回収した破片の多くに溶けたアルミニウムが付着していたとのことです。アルミニウムはシャトルの主構造材に使われている物質です。

http://www.caib.us/news/photos/index.html

Columbia Accident Investigation Board

もしかしたら、左主着陸脚収納部への熱の流入がタイヤのバーストを引き起こし、収納部のドアを吹き飛ばしたのかもしれません(これは、あるエンジニアが事故以前にメールで指摘していた「最悪のシナリオ」というやつです)。

タイヤの破裂、というのはあれぐらいのサイズになるとかなり破壊的です。なにしろ、90tもあるシャトルの重量を8本で支えられるタイヤです。シャトルの着陸は後ろの主着陸脚が先に接地しますから、片側4本、両側8本の着陸脚でほとんどの衝撃と重量を支えることになります。まっすぐ着陸できない場合を考えれば、数本のタイヤでほとんどの重量を支えることも想定されているはずです。そんなタイヤが、高熱に晒され、膨張→破裂したとすれば、かなりの爆風が発生したはずです。密閉された収納部で起きれば、収納部のドアを吹き飛ばすことも十分に考えられます。

タイヤの空気圧というのは、なかなか侮りがたいものがあります。実は、車のタイヤの空気入れというのはかなり危険な作業なんです。空気の入れすぎや、タイヤの裂け目などに気付かずに空気を入れるなどして、タイヤチューブが破裂し、「爆風」で吹き飛ばされて亡くなられる方が、日本だけでも毎年数十名いらっしゃいます。あ、絶対に素人がやっちゃダメですよ。自転車ぐらいまでにしといた方が身のためです。 参考)2001年度、空気充填作業時の事故調査
http://w2332.nsk.ne.jp/~t.kumiai/faq/a3.htm

ただし、注意しなければいけないのは、このタイヤの破裂が本当にシャトルの飛行中に起きたものなのかどうかは、まだ不明だということです。敢えていえば、この破裂したタイヤの写真は「タイヤの破裂による構造破壊の可能性を否定するものではない」という程度です。早とちりはいけません。

個人的な感想は、逆に、「高熱に晒されたにしちゃあ原形を保ってるなあ」という感じですね。だって「ただ破裂した」みたいに見えませんか?以前公開された、熱で溶けている耐熱タイルの写真と比べると、なんというか、普通ですよねえ。ゴムなのに。本当に、ここから最終的な破壊が始まったんでしょうか?ま、ただの憶測なので真に受けないで下さいね。

さて、とりあえずまとめておきましょう。今のところ、最も有力なプロセスは以下の通りです。 1.シャトルの左翼のどこかからか、何らかの理由で、大気圏突入時の高熱のプラズマが流入。一連のセンサーの破壊を引き起こす。 2.シャトルの左翼に何らかの構造的な破壊が起こって、空力的に不安定になり、空中分解。 見ての通り、まだほとんど何も分かっていない状態です。なぜ、いつ、どこからプラズマが流入したのか?プラズマの流入と構造破壊を結びつけるのは何か?構造破壊は、なぜ、どこで起きたのか?これらが、今後の調査の焦点になります。

まだ、回収されたパーツは全体の13%程度とのことです。まだ、先は長そうですね。

(Mar. 10 2003 updated)

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さて、この写真と同時にちょっと面白い写真が公開されていました。

http://www.caib.us/images/photos/icon/STS-107-DSCN0087.jpg
Columbia Accident Investigation Board

なんだかよく分かりませんが、これはシャトルの主着陸脚収納部の内側の写真です(墜落したシャトルのものではありません)。「収納部」という名前から、なんとなくただの箱のようなものを想像してしまいますが、実情はこんな感じです。これは、翼の各部へ伝えられる配線や配管を、いったんこの着陸脚の収納部を通すことでメンテナンス性を上げているんです。余分なドアなどを極力作らないで済ませるために、こういう工夫がされているわけです。逆にいえば、この収納部のドアがウィークポイントだといわれるゆえんでもあります。

今回ここに熱が流入したこととで、配線がここを通過しているセンサーが左主翼の各所で機能喪失を起こした可能性が指摘されています。この写真をみるかぎり、頷かざるを得ませんね。

(Mar. 10 2003 updated)

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Shuttle flight plans in works(FloridaToday)
http://www.floridatoday.com/columbia/columbiastory2A45954A.htm
NASAが早ければ、今年の7月以降、遅くとも来年(2004)の夏までには、シャトルの打上げ再開を目指しているというお話。うぉっ、早っ!

まあ、今回はチャレンジャーの時と違って、ISSがありますから、あまりのんびりしていられないということですね。NASAではコロンビアの事故原因究明と平行して、シャトルの改修、打上げの準備を進めているそうです。現在、事故前から『ディスカバリー』のオーバーホールが行われていますし。引き続いて、『エンデバー』のオーバーホールも来年予定されています。

国際宇宙ステーションは、すでに、ロシアのソユーズによるクルーの入れ替えと、普段よりも一人少ない宇宙飛行士2人での『維持』が決まっていますが、この人員では実験やISS建築の継続はかなり難しい状態です。

事故原因が特定されても、このままシャトルが廃棄されることはまずありませんから、多少無駄が出ても、今のうちにできることをやっておこう、ということのようです。

(Mar. 10 2003 updated)

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手動への切り替え試みた形跡か 米シャトル事故(CNN.JP)
http://www.cnn.co.jp/science/K2003031001533.html
解析が進められていた最後の32秒のデータから、操縦桿に入力があったためオートパイロットから手動操縦に切り替わった形跡があることが分かった、というニュース。

SpaceFlinghtNowにもう少し詳しい記事が出ています。
Telemetry shows autopilot on through last transmission(SpaceFlightNow)
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030309autopilot/

誤解のないように、説明しておきましょう。シャトルに限らず、旅客機の自動操縦などでも、操縦桿にちょっとでも触れればフライトコンピューターの自動操縦よりも操縦桿のからの入力が優先されるようになっています。手を離せば、機体はまた自動操縦に戻り、指定のコースを維持しようとします。記録に残っていたのは、このような動作です。操縦士が何かのスイッチを切ったわけではありません。ですから、記事にもあるように、操縦士が機体のコントロールを取り戻そうとしていたのか、ただ、ちょっと手が触れてしまっただけなのかは分かりません。

もちろん、操縦士が必死に機体のコントロールを取り戻そうとしていた可能性もないわけではありません。しかし、おそらくあの状況下では、操縦士がコントロールするよりフライトコントロールシステムの自動操縦のほうが的確な操縦をしていたはずなんです。突入時のシャトルは、機首を若干上に向けて飛行していますから、操縦士からは水平線を確認することは出来なかったはずです。つまり、操縦士は目視では機体の姿勢を把握できません。彼らが知り得たのは、機体各部の異常を示す警告と、機体の姿勢の異常を示す計器の表示だけです。おそらく、あの状況下で機体が今どういう姿勢にあって、なにが起きているのかを、操縦士が感覚的に把握できていたとは思えません。

明らかにあの時、乗務員よりもフライトコンピューターの方が状況を的確に状況を捉え、機体の姿勢を回復すべく「操縦の努力」をしていました。実際、通信途絶の数十秒前から、空力的なバランスが崩れたのを補正するために、フライトコンピューターはエレボンを操作し、姿勢制御スラスターを噴かしています。このとき、乗務員はまだ異常に気付いていませんでした。上の記事に、「切り替えの操作が実行されたとすれば、乗員は最後の瞬間まで操縦の努力を続けていたことになる」とありますが、もし本当に操縦しようとしていたとすれば、それはあまり適切な対応とは言えません。あの状況下で、操縦士に出来たことは、すでにフライトコンピューターがやっていたはずです。

シャトルは、打上げから2分間、個体燃料ブースターが切り離されるまでは、事故が起きないことを想定して設計されていました。実はこの2分間は脱出方法が定められていません。この間は何か異常が起きても手の打ちようが無いんです。知ってのとおり、チャレンジャーが爆発したのはこの2分間の間でした。この2分が過ぎれば、打ち上げを途中で中止して帰還する手順が決められていますし、軌道上からミッションを中止して帰還する方法もあります。ただもう一つ、打上げ時と同じように、シャトルが大気圏突入時に最も高熱になる約10分間に事故が起きたら、やはりなす術がありません。中止することも、脱出することも出来ませんし、乗務員は外で何が起こっているか把握することがほとんど出来ません。今回の事故は、この10分間の間に起きました。そう、チャレンジャーが事故を起こしたあの2分間を除けば、唯一、事故が起きることが想定されていない時間だったんです。

(Mar. 11 2003 updated)

月が変わったので、再掲載しておきます。
Shuttle-Track 日本語版(PDF/633k) 2003.02.26更新
※筆者がNASAの発表を元に再構成したものです。公式のものではありませんのでご注意ください。

もう、一ヶ月以上たったんですねえ。
毎日追いかけている身にとっては、あっという間でしたが、世間的には、もう遠い昔の事故みたいですね。
まあ、乗りかかった船ですから、慌てず、騒がず、いけるところまで行きましょうか。

更新頻度は、事故当初ほどではないかもしれませんが、『Columbia Lost』は、まだまだ続けます。
いつか、本当のまとめを書く日が来るんでしょう。それまでは、どうぞ気長にお付き合いください。

(Mar. 11 2003 updated)

(Oct. 02 2006 updated)
ミスタイプを修正 「右翼」→「左翼」

Apr. 03 2003 Columbia Lost 2003.04.02

ずいぶん間があきました、ここまでの情報をまとめておきます。分かりやすくするために、発表順とは違う順番で並んでいます。ご了承ください。

■断熱材の衝突位置
シャトルの打上げ時に外部燃料タンクから剥離した断熱材が、シャトルの左主翼前縁部に衝突したことが判明しました。これは、打上げ時のビデオ映像を3次元解析した結果分かったものです。

■軌道上でシャトルから分離した物体
レーダーに映っていた「軌道上のシャトルから分離していった物体」は、シャトルの左主翼前縁部の「Close Out Panel」と呼ばれるパーツである可能性が高いとのことです。これは、シャトルの各パーツを個別にレーダー照射して推定されたものです。

断熱材の衝突位置とClose Out Panelの位置は以下の図を参照してください

(NASA/CAIB)

■主着陸脚内への高温ガスの侵入について
発見された左着陸脚を固定しているパーツの破損状態から、高温ガスは、主着陸脚収納部のドアから直接侵入したものではなく、別な場所から侵入したガスが主翼内を伝って着陸脚収納部に到達した可能性が高くなってきました。
http://www.caib.us/news/photos/photos_20030315/default.html このパーツは約1650℃で融けるため、主着陸脚収納部がそれくらいの温度まで上昇したことになりますが、これがどの時点のことかは分かっていません。

■データレコーダーを発見
シャトルのデータレコーダーがほぼ無傷で発見されました。ま、まじですか?
えーと、これは大気圏突入時のデータを記録するレコーダーです。飛行機事故でいつも問題になる「ブラックボックス」に相当するものです。この記録の解析が進めば、事故原因の調査がかなり進展するはずです。

すでに、721のセンサーのうち570のセンサーのデータが記録されていることが確認され、左主翼前縁のパネルで主脚格納庫内のセンサー異常よりも206秒早い段階で異常が見られていることが判明しているそうです。

これらの結果を見るかぎり、打上げ時の断熱材の衝突→左主翼前縁部の破損→大気圏突入時の熱と衝撃で破損箇所が拡大→高圧ガスの流入、空力バランスの乱れ→空中分解、というプロセスが濃厚のようです。

徐々に、個々の事象が線でつながり始めました。データレコーダーの解析が進めば、かなり明確に事故のプロセスがわかるんじゃないでしょうか。

それから、ずいぶん前に、シャトルの飛行経路図がアップデートされてますね。日本語版に反映させたものを、数日中にアップする予定です。たぶん。
http://www.caib.us/news/timeline/default.html

(Apr. 03 2003 updated)

(Oct. 02 2006 updated)
ミスタイプを修正、「右主翼」→「左主翼」

Apr. 10 2003 Columbia Lost 2003.04.10

ええ、まだやってたんです、実は。

Shuttle_Track_J (flash_version) β版 (534kb)
http://www.lizard-tail.com/isana/review/shuttle/shuttle_track.html
※筆者がNASAの発表を元に再構成したものです。公式のものではありませんのでご注意ください。

これまでPDFで制作していた、コロンビア事故のトラッキングマップですが、
あっという間に情報を載せるためのスペースが足りなくなったので、現在Flashに移行中です。
現状では、既存のトラックマップ(2/26)の内容を移行しただけのものです。
新しい情報等を付加し、もう少し使いやすくしたものを近日再アップする予定です。

【使い方】
 ・マウスクリックで、次のイベントに移動します。
 ・飛行経路上のイベントマークをクリックすると、その時点まで戻ります。

完成されたコンテンツではなく、情報がアップデートされるたびに修正するものですので、
メンテナンス性を考慮して、1024X786という巨大なものになってしまっています、
少々見づらいかもしれませんが、スクロールしながら見てください。
シャトルの現在位置を中心に、だいたい800x600に収まるようにレイアウトしてあります。

ちなみに、制作環境はSWiSH2です。なにしろFlashの制作は初めてなので、
見苦しい点などあるかと思いますが、メール/掲示板などで遠慮なくご指摘ください。

(Apr. 10 2003 updated)

試みに、先日発表された、ロールレートとヨーレートの異常値を示すグラフを
シャトルの動きと同期させてみました。主要なイベントのところでしか同期を取っていないので、
あまり正確じゃないけれど、感じはつかめるかな。

まあ、もともとのデータが、誤差が大きいので厳密とはいえない、というコメントつきですけどね。

(Apr. 10 2003 updated)

ローカル保存用(HTML付)
http://www.lizard-tail.com/isana/review/shuttle/shuttle_track_flash.zip

(Apr. 10 2003 updated)

イベントマークをクリックすることで、時間を遡れるように修正しました。

(Apr. 11 2003 updated)

Apr. 23 2003 Columbia Lost 2003.04.23

どうやら、事故原因がほぼ特定されたようです。情報のアップデートをしておきましょう。

■事故原因をほぼ特定
http://spaceflightnow.com/shuttle/sts107/030420scenario/
事故調査委員会が提示したシナリオは以下の通り。

1.打上げ時に外部燃料タンクから断熱材が剥落し、シャトルの左翼前縁部に衝突
2.軌道上で、シャトルの主翼前縁部のパーツ(RCCパネル)の接合部をつなぐ部品(T-Seal)が脱落
3.再突入時の高温ガスが、部品が脱落した隙間から流入
4.熱による内部/外部破壊が進行、破壊に至る

軌道上で脱落したと見られるパーツへのレーダー照射実験の結果がほぼ出揃い、回収された破片の分布から、この結論に至ったようです。各段階での詳細なプロセスについては、今後の分析を待つことになりそうです。

打上げ時に脱落したと見られる断熱材は、シャトルの機首と外部燃料タンクを接続するパーツの根元のものの可能性が高いようです。これまでに風洞実験などの結果から、かなり力がかかることが明らかになっており、以前のシャトルフライトでもここから断熱材が剥離していることが指摘されています。 参考)4月1日のCAIB発表資料(議事録を読まなくても、この資料を見れば大体分かります)
http://www.caib.us/news/press_briefings/pb030401-present-foam.html

興味深いのは、左翼前縁部の破片回収場所のプロットですね。
参考)4月22日CAIB発表資料(画像直)
http://www.caib.us/images/press_briefings/pb030422/hallock/Slide5.jpg
明らかに右翼RCCパネルの9番を中心に、ほぼ順番にパーツが脱落しています。

軌道上で脱落したパーツはクローズアウトパネルだとされていましたが、回収された破片に含まれていたため、新しい候補としてT-Sealが検討されていました。これは、各RCCパネルの間に設置され、RCCパネル同士を接合し隙間を埋める役割を果たすパーツです。また、衝突位置は、RCCパネルの5番から6 番の位置とされていましたが、その後の解析で8番から9番にかけての位置とされています。

パネルの位置は、以下の画像を参照してください。
参考)4月15日CAIB発表資料(画像直)
http://www.caib.us/images/press_briefings/pb030415/hubbard/Slide3.jpg
参考)T-Sealの画像(画像直)
http://www.caib.us/images/press_briefings/pb030415/turcotte/Slide11.jpg

■NASAへの第一回目の勧告
http://www.caib.us/news/board_recommendations/br030417.html
4月17日に事故調査委員会は、シャトルの飛行再開への条件となる最初の勧告(Recommendation)を行いました。 その内容は以下の通りです。

勧告 1
飛行再開の前に、NASAは全てのRCCシステムの構造的な強度が保たれているかどうか総合的な検査を開発し、実行すべきである。また、この検査プランには最新の非破壊検査技術を取り入れるべきである。

勧告 2
飛行再開の前に、NASAは米国国家地図作成局(NIMA)との協定を改訂し、軌道上のシャトルの撮影を各シャトルフライトの標準的な要求とするべきである。

2番目はちょっと説明が必要かもしれません。NIMA:The National Imagery and Mapping Agency(http://www.nima.mil/はURLを見れば分かるように軍に属する組織です。サイトにも書かれているように、国家安全保障を支援する目的で衛星軌道上から、地表の観測をすることを主目的としています。平たく言えば、スパイ衛星の管理組織ですね。 つまり、勧告2はスパイ衛星を含む軍のネットワークを利用して軌道上のシャトルを撮影し、安全確認をするようにという勧告とほぼ同義です。

■今後の動き
4月30日には破片の回収が打ち切られ、回収された破片、各種データの分析をもとに詳細な報告書が夏の終わりごろには提出される予定です。

報告書の内容は以下の通りです。

・直接的な原因(direct cause)
・事故を引き起こした要因(contributing factors)
・根底にある原因(root causes):事故原因に関する文化的、歴史的、予算的背景
・重大な観察事項(significant observations):NASAに報告すべき管理や安全の問題を指摘するもの。

この報告書はおそらく一般に公開されるはずです。
参考)チャレンジャー事故報告書
http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/missions/51-l/docs/rogers-commission/table-of-contents.html

(Apr. 23 2003 updated)

それから、余談ですが、事故直後の記者会見に度々登場した、シャトルのチーフエンジニア、ロン・ディトモア氏が辞任するそうです。シャトル事故の責任をとってということのようですが、もともと今期を持って現職を退く予定だったので、それが少し早まったということのようです。

おつかれさまです、Mr.ディトモア。

(Apr. 23 2003 updated)

もはや、ここまで追いかけてきた人にしかわからない内容になってますが、どうぞご容赦ください。
いつかきっと、ちゃんとしたまとめ/解説ページを作ります。

(Apr. 24 2003 updated)

May. 12 2003 Columbia Lost 2003.05.12

5/7、事故調査委員会(CAIB)の定例の記者発表がありました。今回は、事故に至るまでのシナリオが画像つきで紹介されていました。せっかくですから、ダイジェストして再掲しましょう。

■打上げ時
打上げ81秒後に、外部燃料タンクバイポッド部から断熱材が脱落、コロンビア号左翼RCCパネル#5から#9に衝突。(軌道解析から#7〜#8の可能性が高いと思われます)

img0506_01.jpg

バイポット部というのは、上記のようにシャトルの機首部分でタンクと接続されている所です。ここは、風洞実験からかなりの負荷がかかることが確認されており、これまでの飛行でも、しばしば断熱材の脱落が見られた部分です。

img0506_02.jpg

衝突したと見られるエリア。これは打上げ時の映像を3次元解析することによって得られた軌道です。後述する、高温ガスの侵入部分とほぼ一致しています。この主翼の前縁部分(この絵では薄いグレーの部分)をRCCパネルといい、ナンバリングしてあるように、幾つかのユニットに分かれています。衝突が始まっているのが#6。#7、#8にかけて断熱材が衝突したようです。

■軌道上
16日間のミッションの間、クルーの報告や、シャトルのテレメトリからは異常は発見されませんでした。2日目に軍のレーダーに写っていた、シャトルから離れていく物体は、T-シールもしくはRCCパネルの一部と見られています。T-シールというのは、RCCパネルの継ぎ目を埋めるパーツです。

■大気圏突入時
シャトルは、#5〜#9のRCCパネルかT-シールに損傷がある状態で、大気圏に突入したと考えられます。このうち最も可能性が高いのは#8および#9。回収された破片でも、この部分が超高温の熱に晒されたことが確認されています。

img0506_03.jpg

まず、RCCパネルに高温ガスが侵入します。8:44:09〜8:49:00の間と考えられています。

img0506_04.jpg

これは、シャトルの翼前縁部を輪切りにしたもの、左側が進行方向です。湾曲しているのがRCCパネル及びT-シールと呼ばれるパーツ。太い矢印が示すように、まず、RCCパネルと翼本体部分の間の空間に高温ガスが侵入したと考えられます。
その後、前縁部桁隙間から翼内部に進入。上の図では、細い矢印です。

img0506_05.jpg

高温ガスの主な侵入経路。侵入した高温ガスは、シャトルの翼内で、各種のケーブルを焼き切りながら広がっていきます。温度上昇により、翼の変形が進み、タイルが外れたり、接着剤が溶けるなどの現象が始まっていたと考えられます。

img0506_06.jpg

これは、上図での星マークを機体後方から前向きに撮った写真。8:52:16にはここに高温ガスが流入し、ケーブルを焼ききります。これが最初にテレメトリーに記録されたエレボンのセンサーの機能消失を引き起こしたと考えられます。

やがて、流入した高温ガスの影響がどんどん広がり、タイルやパーツの剥落が進み、翼の空気抵抗が増加していきます。8:53:46には最初の破片の脱落がカルフォルニアで観測されます。

やがて、8:56:16、上図、細い矢印が示すような経路で、ガスが主着陸脚収納部に侵入、収納部内部のセンサー異常を引き起こします。8:58:56には全ての左着陸脚の圧力および温度データが消失します。

左翼の損傷はさらに進行。8:58:09にはエレボンが動作し、8:59:29には右スラスター4機が噴射されます。これは、かなり翼の変形が進み、空気抵抗が増したことで、シャトルの姿勢が左に傾いていたことを示します。

8:59:32には、地上からのテレメトリー受信が途絶え、9:00:14には搭載されたデータレコーダーの記録も失われます。

9:00:23には、地上からのビデオ映像により機体の破壊が確認されています。

細かい部分はまだ不確定な点はあるものの、最終報告書を記載されるであろう事故のプロセスはおおむね上記のようになるはずです。今後、さらに細かい侵入経路や破壊のプロセスなどが明らかになるでしょう。

(May. 12 2003 updated)

Jun. 25 2003 Columbia Lost 2003.06.25

ちょっと間があいたので、この間の動きをまとめておきます。
原因調査については、さほど新しい進展はありません。

■事故原因調査
ほぼ、打上げ時に剥落した断熱材の破片の衝突が原因という方向で報告書がかかれることになりそうです。前回も書いたように、この破片は外部燃料タンクとオービターの接合部から脱落したものとみられ、左翼前縁の機首寄りの場所に衝突、何らかの損傷を与え、大気圏突入時の高温のガスがこの損傷部から流入したと考えられます。 →参考)JunkyardReview『Columbia Lost 2003.05.12』

この間、断熱材が衝突したとみられる主翼前縁のRCCパネルに、実際に断熱材の破片を衝突させる実験が行われ、数箇所に亀裂が発生することが確認されました。

断熱材の衝突により発生したRCCパネルの亀裂
わずかな亀裂ですが、パネルの裏側まで抜けていますし、大気圏突入時の熱と振動がこの亀裂に大きく作用した可能性は高いと思われます。もしかしたら、コロンビアにはもっと大きな亀裂が発生したのかもしれません。

断熱材衝突時の連続写真
亀裂がだんだん大きくなり、衝突の振動で大きく開く様子がよく分かります。また、パーツの合わせ目などにもわずかなズレや、段差が出来たようです。

■新たな危険性の指摘
今回の調査で、打上げ後、126秒後の固体燃料ロケットブースター(外部燃料タンクの脇にくっついている鉛筆みたいな細くて白いやつ)の分離の際に、外部燃料タンクとの接合ボルトが脱落していることがレーダーの分析によって判明しました。今回は機体への衝突は無く事故の原因とは無関係ですが、このパーツは非常に重量があり、機体に衝突すると深刻な被害を及ぼす可能性があるとのこと。この点については、今後、事故調査委員会から対策を取るようNASAに対して勧告が出されます。

■シャトルの運用再開について
事故調査委員会は以下の点を4点を、運用再開への勧告としてNASAへ提出する予定。 ・外部燃料タンクの断熱材の脱落防止
・断熱材の衝突に備えた機体強度の向上
・機体の損傷を飛行中に修理するシステムづくり
・飛行士の救助体制の整備
これらの改修・体制の整備はさほど時間がかからず、6〜9ヶ月で再開できるとのことです。

また、カメラによる安全確認を徹底するため、シャトルの打上げを昼間に限るとの勧告がだされ、スケジュールが確認された結果、年内に打上げ可能な日が限られており、年内の打上げは難しいかもしれないとのこと。ただ、NASAでは12月の再開を目指して暫定的な計画が作られており、遅くとも来年3月には再開する予定。

また、今回の事故の遠因が、NASAの財政情況の切迫によってシャトル予算が圧縮され充分なあんぜんたいさくが取れなかったことにあるのではないかという点についても検討が進められており、将来計画の見直し、組織体制の変更を含めた改革案が提示される予定だとのことです。

(Jun. 25 2003 updated)

NASAは現地時間の6/24、回収されたシャトルの残骸の中から発見された写真とビデオテープを公開しました。
NewsRelease
http://www.jsc.nasa.gov/news/releases/2003/H03-212.html
STS-107 Shuttle Mission Imagery Recovered
http://spaceflight.nasa.gov/gallery/images/shuttle/sts-107/recovered/ndxpage1.html

(Jun. 25 2003 updated)

Aug. 28 2003 Columbia Lost 2003.08.28

コロンビア事故調査委員会最終報告書(NASA/CAIB)
http://www.nasa.gov/columbia/home/index.html http://www.nasa.gov/columbia/home/index.html

8 月26日、コロンビア事故調査委員会から、最終報告書が発表されました。事故から半年強、すさまじくスピーディな対応です。また、この情報開示の徹底具合は賞賛に値すると思います。今回、この報告書は、NASAのクルーオフィスや議会への提出とほぼ同時にネット上で全世界に向けて公開されました。

報告書は280ページにも及び、事実関係とその対応策、NASAへの勧告などが、かなり優しい言葉で非常に丁寧に書かれています。これまでの経緯を知らなくても、何が起こり、何が原因だったのかがちゃんと分かるようになっています。何しろイントロダクションには「スペースシャトルの基礎知識」「NASAについての基礎知識」なんていう記事が入っているくらいです。

報告書の本編は大きく以下の3つのパートに分かれています。
第1部 THE ACCIDENT(事故)
第2部 WHY THE ACCIDENT OCCURRED(なぜ、事故は起きたのか)
第3部 A LOOK AHEAD(将来のために)

第 1部は、事故の概要と物理的な原因についての説明。第2部は、事故の根本原因としてNASAの歴史的な経緯、運用体制、意思決定プロセス、体質などが議論の対象になっています。そして、第3章が今後の打上げ再開と継続的な有人宇宙飛行を行う上での対応策と具体的な勧告が述べられています。

物理的な原因は、これまで何度も報道があったように、打上げ時の断熱材の衝突です。
「打上げ時の外部燃料タンクから断熱材の脱落し、オービター左翼前縁部へ衝突、帰還時に、この損傷箇所から大気圏突入時の熱が流入し、内部構造が破壊され空中分解」というシナリオです。

しかし、この報告書では、この事故のプロセスよりもむしろ、NASAの運用体制や体質に焦点が当てられています(分量的にも第2部は第1部の倍ぐらいあります)。つまり、シャトルの弱点を直せば済むという問題じゃないんだ、ということですね。

まだ、報告書の内容を仔細に読んだわけじゃありませんが、確かにシャトルの運用がその計画当初からかなり問題を抱えていたのは事実です。シャトル計画はかなり見切り発車的にスタートし、思ったよりもメンテナンスコストがかかりすぎて、年間打上げ数が予定を大幅に下回ったという経緯があります。本当なら、シャトルは月一回以上のペースで運用され、一台がミッションを行っている最中には、もう一台がバックアップとしてすぐに打ち上げられる状態になっている、という体制がとられるはずでした。蓋を開けてみれば、再使用可能とは言うものの、莫大なメンテナンスコストと時間がかかり、とてもじゃないけれどそんな運用体制を取ることは不可能な状態。そして、そのまま20年以上の月日が流れ・・・。本来過渡的な使用だったはずのシャトルは、NASAへの予算カットの影響を受けて次世代機の開発が次々と潰れる中で、ずるずると成り行きで運用を続けてきたんです。

チャレンジャー事故の時にも、この運用体制が問題になりましたが、打ち上げ時の事故ということもあって、シャトルそのものの安全性に焦点が絞られたため、この根本的な運用上の問題点は残されたままになっていました。今回の事故の本当の原因は、シャトルそのものの安全性よりも、むしろこの運用上の問題点にある。事故調査委員会はそう結論付けたようです。

一部の報道では、報告書に記載されていた「コロンビアの乗員を救出する方法があった」という内容が大きく扱われていますが、これは上記のようなシャトル運用の経緯を踏まえたうえで議論されるべきものです。確かに、今回のミッションでは、「たまたま」次のミッションのためにシャトルの準備が最終段階を迎えていたため、チェックなどを省略して無理やり打ち上げれば間に合ったかもしれません。でも、根本的には、これが「たまたま」であった事が問題なんです。冬山で遭難した人間をシャツ一枚で救出に行くことが、問題の解決から程遠いことは誰の目にも明らかでしょう。可能だったかもしれませんが、それは無謀と紙一重だったはずです。

シャトルの運用そのものは、来春にも再開される予定です。シャトルの構造上の改修はさほど大きくありませんから、これは充分に現実的なスケジュールだと思います。問題はその後、この綱渡り状態をどうやって解消するかにあります。この事故の教訓を本当の意味で生かして「安定的な運用」を実現するのは、そう簡単なことではありません。でも、これは私たちがあそこにいくのなら、いつかは通らなければならない道です。以前書いたように、宇宙飛行士たちはあの場所を「日常」にするために、時に命を賭してあそこへ出て行くことを生業とする人々です。だとすれば、この事故をその端緒とすることを置いて、「彼らの意志を継ぐこと」はありえないんじゃないか、そんな気がします。

(Aug. 28 2003 updated)

Sep. 04 2003 Columbia Lost 2003.09.04

コロンビア事故最終報告書 非公式日本語版

勢いで始めてしまいました。日記のほうには、随時進行状況を掲載していますが、イントロ部分の翻訳がほぼ終了したので、こちらでも公開します。

NASDAの方でも翻訳が進められているようなので、まったく無駄としかいいようがありませんが、まあ、写経みたいなものです。こちらでは、技術用語の正確さや、報告書としての体裁よりも、むしろとっつきやすさや読みやすさを優先させたいと思っています。

今回の報告書を斜め読みしながら、なんとなく「この事故のことをなるべく多くの人に理解して欲しい」という執筆者達の意志を感じました(勝手な思い込みかもしれませんけどね)。関係者ならば当然知っているであろう事項がきっちり説明されていたり、読み手の感情に訴えるような言葉が選ばれていたり、本文とはまったく無関係にコロンビアに関係する図版が大きくあしらわれていたりします。要するにこの文書、報告書っぽくないんです。これを、堅い報告書文体で訳してしまうのはちょっともったいない気がしました。

この訳文に「ですます調」が採用され、ところどころに報告書らしからぬ言い回しが使われているのは、そういう理由です。

なにぶん、まとまった量の翻訳をするのは初めての経験なので、どこまでいけるか分かりませんが、もう少しやってみようと思います。

Nov. 01 2003 Columbia Lost 2003.11.01

コロンビア事故最終報告書 非公式日本語版
http://www.lizard-tail.com/isana/final_report/

ここの更新がずいぶん間が開いてしまいました(はてなDiaryのほうは継続していたんですけどね)。この間ずっと、最終報告書の翻訳のほうに集中していたものですから・・・。2ヶ月近く開けてまたそのネタかい、といわれそうですが、どうぞご勘弁ください。

つい、先ごろコロンビア事故調査委員会から、最終報告書の残りが公開されました。これでようやく最終報告書が完結したことになります。公開されたのは Appendixに相当する5つのセクションで、約60の文書からなっています。そのほとんどが、調査委員会の元で調査を行った専門家・専門機関が作成したかなり専門性の高い報告書とデータ集です。

NASA:CAIB Report
http://www.nasa.gov/columbia/home/index.html

さて、この2ヶ月間再びシャトル事故の話題にどっぷり使っていましたが、その中でずいぶんいろんなことを考えました。今日はちょっとそのご報告をしたいと思います。

シャトルの物理的な事故原因はさほど複雑ではありません。
打上げ時に外部燃料タンクとオービターの接続部分から脱落した断熱材の破片が、左主翼に衝突。大気圏突入時にその損傷部分から高温の大気が流入し、翼の構造が破壊されて空中分解を起こした。これが今回の事故の直接的な原因です。これまで何度も報道されてきた内容ですから、いまさら繰り返すまでも無いかもしれません。

では、問題はどこにあったか?断熱材を吹き付ける行程での作業員のミスか?それとも、断熱材の構造と材質そのものが問題なのか?議論がこのレベルですんでいるなら、僕は今回の事故報告書を翻訳しようとは思わなかったでしょう。今回事故調査委員会が出した結論はもっと根本的な部分に焦点が当てられていました。彼らは、「シャトルはそのプランの段階から既に間違った道を歩み始めていた」と指摘したんです。この事故は、その間違いに端を発すると。報告書にはこうあります「調査はテキサス東部から始まったが、結局、30年前の過去にたどり着いた」

僕は、事故報告書という形でこの指摘が明確に示されたことに衝撃を覚えました。実は、この指摘そのものはずいぶん昔からシャトルに対する批判として行われてきたもので、議論そのものはさほど目新しいものではありません。今回外部機関とはいえNASAのごく近くの公式機関からこの報告が出たことで、NASAだけではなくアメリカの宇宙開発そのものがこの問いに直面しました。僕はその問いかけにとても驚いたんです。

「我々は間違っていたのかもしれない」

物理的な欠陥や組織上の問題点を指摘する厳しい声の合間に、彼らはこの報告書のそこかしこで、そうつぶやいています。物理的な欠陥なら改良すれば済みます、組織的な問題点も対策の方法はあるでしょう。でも、このあまりに根本的な問いに答えるのはそう簡単なことではないはずです。

近い将来、シャトルミッションは再開されます。アメリカはきっと勝利宣言をするでしょう(ブッシュが「我々はもう一度月へ行く」と近々宣言するという噂もあります)。一時的な停滞はあったとしても、大きな流れとしての宇宙開発が止まることはないと思います。でも、その根元のところで、この答えのない問いが通奏低音のように響き続けるはずです。

夢を語るのは難しいことではありません。でも、それを実現していく過程で、描いていた理想は徐々に形を変えていきます。シャトルの開発はまさしくその過程の中でゆがんでいきました。シャトルの次に来るプロジェクトが、シャトル計画そのものが、もう一度その道を辿らない保証はまったくありません。成功への道はさほど多くはありませんが、崩壊への道はいくらでもあるんです。

理想と現実の狭間で、その問いは何度も発せられることになるはずです。我々は間違っているのかもしれない。夢と希望はいつも僕達の前にあるとは限らない。もしかしたら、僕達は後ろを向いているのかもしれない。

このつぶやきは、きっと耳を傾けるに値する言葉です。

(Nov. 01 2003 updated)

Dec. 01 2003 原因の在処

http://www.jaxa.jp/press/2003/11/20031129_h2af6-sac_j.html

H-IIAの打ち上げが失敗しました。色々な意味で「またか」と思います。人の命が失われなかっただけ、良かったというべきなんでしょうか。原因究明にあたられている皆さん、本当にご苦労様です。辛い仕事だとは思いますが、がんばってください。

直接の原因は、第一段の推進力を助ける固体燃料ロケットブースターの切り離しに失敗しロケット本体からぶら下がったままになったことで推力が足りず、予定の速度が出せなかったことです。切り離し用の爆発ボルト(仕込まれた火薬によって分割するボルト)そのものに何らかの不具合があったか、あるいはそこに切り離しの指令を送るための回路に問題があったか今のところはわかりません。事故調査委員会の調査結果を待つことになります。

※どうやら、ノズルが破損したせいで、点火のための配線が焼き切れたことが原因のようです。構造的な欠陥の可能性もあり、対策も含め復帰にはかなり時間がかかるかもしれません。

僕が少し驚いたのは、事故後の記者会見で記者から理事長に対して「辞任を含めた責任のとり方は」みたいな質問があったことでした。理事長は「責任を感じている」と述べただけですが、あの場所あの瞬間にその問いが飛び出したことに少しびっくりしました。まあ、ごく普通と言えばごく普通の反応なんでしょう。でも、まず事故の責任をとって、プロジェクトのリーダーが辞任をするという考えた方が「ごく普通」になってしまうということそのものが、この先の事故究明のプロセスを暗示しているようでなんとなく不安になります。今回の事故にはJAXAの組織としての犯罪性はありません(今のところはそんな話はありません)。JAXAのトップが下した判断が間違っていたという確固たる証拠があるわけでもありません。それでも、まず誰が責任を取るのかということが問題になってしまうことにとても疑問を感じます。今回の事故の対応が、原因の追求ではなく責任の追及に矮小化してしまわないか少し不安です。

事故の原因を明らかにする理由は、「責任の所在を明らかにするため」ではないはずです。当然、次に同じような事故を起こさないために事故原因の究明がなされなければならない。プロジェクトのリーダーが真っ先に考えるべきことは、なぜ事故が起こり、事故を防ぐためには何をすればいいかじゃないでしょうか。この場合、誰かに責任をとらせるための報告書はまったくといっていいほど無意味です。プロジェクトのリーダーは責任をとってやめるのが仕事ではありません。

ちなみに、コロンビアの事故ではNASAの長官は辞任はしていません、シャトルプロジェクトの主任はNASAを退職しましたが、これはもともとSTS- 107が終了した時点で退職を予定していたからすぎません。シャトルの安全監査チームが解散しましたが、その理由は新しい安全管理組織の立ち上げにあたり、チームの役割が終わったからです。僕の知る限り、今回の事故で責任をとって辞任したNASAの幹部はいないはずです。

コロンビアの事故の直後、予定されていた着陸時間の一時間後には、NASAの外部の人間を含む事故調査委員会が組織され、徹底的な情報開示とともに事故原因の特定と、今後の対処のための活動が開始されました。そして、数ヶ月の間毎週のようにプレスカンファレンスが開かれ、調査の進行状況がリアルタイムで報道機関に開示されました。確かに、NASAはチャレンジャーの事故を活かせていなかったという指摘はありますが、この調査のプロセスについては、考えうる限り最善の方法がとられていたように思います。

事故を100%防ぐことは出来ません。宇宙開発は必然的に失敗のリスクを抱えています。過去の事故から本当に学ぶべきことは、事故を起こさないための工夫だけではないはずなんです。不幸にも事故がおきてしまったときに、如何にそれに対処し、どれだけ早く安全と信頼を取り戻すことが出来るか、そのことも活かされてしかるべきじゃないでしょうか。

何千人という人々がかかわっている巨大プロジェクトに「単純ミス」も「ケアレスミス」も「偶然」もありません。単純ミスにはそれがおきた原因があるはずです。単純ミスを防止する仕組みがうまく機能していなかったのか、単純ミスを誘発する組織的文化的問題があったのか。設計にミスがあったのなら、その設計を通してしまった理由はなんだったのか。どんな失敗も、どこかで人とその意思決定の結果からおきます。「フェイルセーフ」は組織の中にこそ組み込まれていなければならない機能のはずなんです。確信があるわけではありませんが、「責任の所在を明らかにする」という意識からは、こういう発想が出てこないんじゃないでしょうか。

NASAはコロンビアの事故について、その初期において見事な対応を行い、すばらしい報告書が作られました。その対応が信頼を取り戻すことに大きく寄与していることは間違いないでしょう。JAXAがその先例から何らかを学んでいることを願いたいと思います。

参考)コロンビア事故最終報告書 非公式日本語版

(Dec. 01 2003 updated)

Feb. 03 2004 Dear Rocketeer.

ディア、ロケッティア。君と会えなくなってずいぶんになる。あの頃はいつも一緒にいて、いろんなことを話したけれど、君はもう僕のことは覚えていないかもしれない。まあ、きっとそれは仕方がないことなんだろう。少し思い出話をしよう。今日はそれにふさわしい日だから。

そういえば、あの日も青空だった。真夜中のテレビはアメリカの空の青。発射台の上のシャトルは真っ白に輝いていて、できないことなんて何もないように見えた。カウントダウン、エンジン点火。君を乗せたシャトルは轟音とともに真っ青な空に向かって駆け上り、74秒後、突然爆発した。雲一つなく晴れた空と、煙の白、燃え上がる炎の赤、涙が出るぐらいきれいだったのを今でもはっきり覚えている。あのとき僕の中で何かが死んだ。

あの頃、小さな錆びたボルトとナットが僕の宇宙船だった。地面に顔を近づければ、砂場は異星の砂漠に見えた。薄汚れた池は危険な沼地に見えたし、花壇は何が潜むとも分からないジャングルだった。学校の校庭はどこまでも広く、探検し尽くすなんてとてもできそうになかった。

やがて、背が伸びて、他に楽しいことが沢山できて、僕は校庭の隅の秘密を忘れてしまった。振り返れば、あの場所は笑ってしまうぐらいに小さく、なぜ、何があんなに楽しかったのか、僕にはもう思い出せない。僕はあの小さな宇宙船を大切に大切にポケットにしまい込んで、結局そのことを忘れてしまったんだ。

ふたたび君が空から墜ちてきたあの日。やっぱりテレビの中の空は、どこまでも青くて遠かった。もうすっかり大人になったはずの僕は、テレビの前で意味もなくおろおろし、駆け出したくなるのを必死で押さえて、テレビにかじりついていた。

君はきっとまたあの青空へと向かうんだろう。理由やしがらみや大義名分は君とは関係ない。君を動かしているのはそういうものじゃない。君は心からあそこに行きたいと願い、そこに向かって手を伸ばす。僕は君のそういう心のありようを少しうらやましく思う。じゃあ、僕らはどうなんだろう?少し後ろめたさを感じながら、君を送り出す僕らは?

残念だけど、人類が月を、火星を目指すのはサイエンスのためじゃない。まして夢や希望のためでもない。アポロだってそうじゃなかったし、宇宙ステーションだってそうじゃない。それはケネディやブッシュの演説を見たって明らかだ。もちろん、お金や政治のことは大切だけれど、でも本当にそれだけなんだろうか?

きっと僕らはただ、君の言葉が聞きたいんだ。君が遠くの方から「あぁ」とか「おぉ」とかいうのに耳を澄ませる。そして帰ってきた君に、こう問いかける。「ねえ、どうだった?」そう、大切なのは、君が実際にそこへ行き、その目で何かを見てきたという事実。今も誰かが、そこに向かって手を伸ばそうとしているという事実だ。

たった今も、軌道上には人がいて、国際宇宙ステーションの小さな窓から地球を見下ろしている。遠く火星では、人のつくった小さなロボットが誰も触れたことのない岩にむけて腕をのばしている。遥か太陽系の果てでは探査機が地球に向けて微弱な電波を送信し続けている。そういうことが、少なくともそれを知る人々の心のありようを、ほんの少しだけ変えているんじゃないだろうか?それはきっと悪いことじゃないはずだ。そして、その小さな変化が、ほんの少しだけ世界のありようを変えているんじゃないか、僕はなんとなくそんな気がするんだ。

夢や希望じゃロケットは飛ばないけれど、ロケットは夢や希望をのせて飛ぶ。
君の言葉が、あの手のひらのボルトとナットを、もう一度小さな宇宙船に変える。

ディア、ロケッティア。どうやら僕は、まだ君と一緒に行けそうにない。
申し訳ないけれど、かわりに行ってきてくれないだろうか?
帰ってきたら、お土産話を聞かせておくれよ。

僕はここで、あの小さな宇宙船を握りしめて、今も君を待っている。

(Feb. 06 2004 updated)

Feb. 03 2005 がんばれ、スペースシャトル。

NASA Human Space Flight - STS-107 (NASA)

あれから二年経ちました。実は、思うところは去年とあまり変わっていません。でも、せっかくなので少し違う話をしましょう。

結論から言えば、シャトルは失敗作です。妥協に妥協を重ねたあげく、必要以上に複雑で無駄と無理の多い設計を行い、予算とスケジュールに縛られて杜撰な運用を行い、1度の失敗から学ばず、2度目の事故を起こしました。

当初、スペースシャトルは、アポロ計画の後、火星を目指すプロジェクトの一部として計画されました。軌道上に恒常的な宇宙ステーションを建設し、月基地の建設をへて、火星を目指す計画です。シャトルはその巨大な計画のごく一部、建設資材を軌道上へ運ぶ輸送手段に過ぎなかったんです。しかし、ソ連を出し抜くという当初の目的が達成され、しかもベトナム戦争に国家予算がまわされたために、計画が大幅に縮小されました。残ったのは、余った3機分のサターンロケットを転用した宇宙実験室「スカイラブ」とスペースシャトルだけでした。

NASAがスペースシャトルに固執したのは、それが唯一残された輝かしい過去の遺産だったからです。そして、それは唯一、輝かしい未来につながるかもしれない計画でした。しかし、計画が遅れる中でさらなる予算縮小を迫られ、NASAは軍に泣きつきました。「予算獲得の支援をしてくれたら、代わりに君たちの要求通りの宇宙船を作ってあげる。だいじょうぶ、予算はこっちで持つからさ」どうにか計画は生き残りましたが、NASAは縮小された予算と、軍からの無茶な要求仕様の間で妥協を重ねることになります。これがそもそもの間違いの始まりでした。

(詳しくはコロンビア事故調査報告書 -1.2 Merging Conflicting Interestsを参照して下さい)

結局出来上がったのは、かろうじて再利用はできるものの、極めて複雑で、莫大なメンテナンスコストがかかる厄介な代物でした。なにしろ、オービターのメンテナンスには平均で3ヶ月かかるんです。耐熱タイルのチェックと張り替え、磨耗パーツの交換、故障箇所の修理、膨大な量のチェック。固体燃料ブースター(左右についてる鉛筆みたいなやつ)も回収とメンテナンスのコストを考えると一から作ったのとほとんどかわらないという状態でした。

NASA は半ば自分自身も騙すような形で、この事実を隠し続けます。いつかは、プロジェクトが軌道に乗れば、コストはどんどん下がるはずだ。誰もがそう信じました。でも、それもチャレンジャー事故で破綻が露呈します。結果的に、予算への締め付けは更に厳しくなり、必然的にスケジュールを守ることが最優先になりました。すくなくとも問題なく運用されていることをアピールしなければなりませんでしたし、スケジュールが遅れれば更にコストがふくれあがります。この方針は、すぐに「なによりも」スケジュールを優先するに変わりました。その意味では、事故は起こるべくして起こったんです。

スペースシャトルプロジェクトはアメリカだけでなく、他の国の宇宙開発にも暗い影を落としました。開発当初、シャトルは30億円足らずの予算で30トンものペイロードを、2週間に1回のペースで軌道上に上げられるはずでした。もし、本当にこの仕様を満たす機体ができたら、この先数十年に渡ってアメリカが宇宙開発/宇宙ビジネスを独占することになります。各国はこの「夢のような機体」に振り回される形になったんです。これからは、使い捨てじゃなくて再使用型の時代だ。みんながそう信じてしまったんです。

日本と西ドイツはアメリカに追従し、スペースシャトル計画に参加しました。日本は、その一方で独自のシャトルシステムの開発にも着手します。フランスも独自のシャトル計画をぶち上げ、同時にシャトルが苦手とした静止軌道への打ち上げに特化したアリアンシリーズの開発に乗り出しました。ソ連もソユーズロケットとミールというすでに実績のあるシステムを持っていたにもかかわらず、アメリカに対抗して再使用型のシャトルシステムの開発を密かに始めました。

結局、各国のシャトル計画は(アメリカ自身の次期シャトル計画を含めて)コストが見合わず全て頓挫しました(ソ連の計画は国そのものが無くなってしまうというアクシデントがありましたが…)。有人システムで残ったのは、アメリカのシャトルを除けば、使い捨て型のソユーズだけです。あのとき、NASAがもう少し現実的なプロジェクトを打ち出していれば...、まあ、やめておきましょう。

今回のコロンビア事故で、NASAは「シャトル計画は最初から間違っていた」という結論を下しました。スペースシャトルは2010年で退役、どうやら次の有人機はスペースシャトルのような有翼型ではなく、アポロのようなカプセル型になりそうです。

そう、スペースシャトルは間違っていました。たぶん、それは正しい認識です。でも...

*

僕は、アポロが最後に飛んだ年に生まれました。物心ついたときには、人類が月の上を歩いたことはもう歴史になっていました。リアルタイムの体験として今はっきりと思い出せるのは「スカイラブが落ちてくる」というニュースです。当時、ソ連の宇宙開発はほとんど西側には伝わっていませんでしたから、宇宙に行く方法はすなわちスペースシャトルに乗ることでした。当時の子供にとって、スペースシャトルはキラキラした未来の象徴だったんです。

チャレンジャー事故の時、僕はあの光景をNHKの深夜放送でリアルタイムで見ていました。打ち上げの成功を報じるアナウンサーのコメントの後、いったん番組は終わりました。TVを消そうと思った瞬間、突然予告なく番組が再開され、あの映像が映し出されました。

あのとき、自分が何を感じたのか今はもう思い出せません。でも、なんとなくあの頃から、僕は「輝かしい未来」というやつを信じなくなりました。まあ、中学2 年生ですから、シャトルが落ちようが落ちまいが、ちょうどそういう時期だったのかも知れません。ちょうどこの頃から、僕は物事を斜めに見るようになっていきました。

それから、ここまで戻ってくるのに、15年以上かかりました。やってみて分かりましたが、かっこいいものをただかっこいいと、美しいものをただ美しいというためには、トレーニングが必要です。少なくとも僕にとってはそう簡単なことじゃありませんでした。

そして、ようやく「うぉー、かっこいー」とか「きれー!」なんて言葉を臆面もなく繰り出せるようになったと思ったら、今度はコロンビアが落ちました。僕はおろおろとうろたえ、闇雲にサイトを更新してみたり、やったこともない翻訳に手を出してみたりしました。そう、まるで中学生みたいに。そして、僕はひねくれる代わりに、自分が受け取ったものにお返しをすることをまじめに考えるようになりました。ま、やってることはおんなじなんですけどね。

*

そして、少なくともあと5年、国際宇宙ステーション (ISS)が完成するまではシャトルには飛んでいてもらわなきゃいけません。万が一、もう一度シャトルが落ちることがあったらもう永久にISSが完成することはないでしょう。スペースシャトルは欠点だらけの機体です。それでも、今この状況で、その先に進むためにはまだあの機体が必要なんです。

僕は、これからもスペースシャトル計画を応援します。プロジェクトを支える数多くのスタッフや、宇宙飛行士達に心からの感謝を、そして...

がんばれ、スペースシャトル。がんばれ!

(Feb. 03 2005 updated)

Nov. 24 2005 Exploration - The Fire of Human Spirit

Exploration - The Fire of Human Spirit - STS-117 - August 4, 2005

2005年8月4日、STS-114ディスカバリーとISSのクルーによって軌道上で行われた追悼式。音声ファイル、トランスクリプションおよびその翻訳。

Feb. 03 2006 Columbia, Houston, comm check...

Columbia, Houston, comm check... - Columbia Lost - Feb 1, 2003

2003年2月1日、コロンビア事故の際、ミッションコントロールルーム内で交わされた音声記録。音声ファイル、トランスクリプションおよびその翻訳。事故プロセスの解説付き。

Jan. 28 2011 KASHIWAI, Isana